仮掲示板

Re:96期感想(中)



〉 面白かった。凄い良かったですこの話。これは芥川龍之介の河童を意識した作品でいいんですよね?
〉 最初は「なんでわざわざ同級生が河童? というか河童に記憶を操る能力なんてあった?」などと疑問に思いましたが、そこに気づいてからはすべてすっきりまとまりました。
〉 「記憶を操るおそれ」の一文で、今まで描かれていた学生時代の思い出がすべて信憑性をなくしたのに、主人公がまったくそれを気にしてないところとか。芥川龍之介の河童で、主人公が古い電話帳を開いて詩を朗読しはじめたときの喪失感を思い出してしまい、素晴らしかったです。



ご感想ありがとうございます。
我が自宅の書棚に唯一収まっている芥川龍之介の作品は、昭和41年発行の旺文社文庫『河童・或る阿呆の一生』ということで、『河童』はそれこそ高校時代の教科書に掲載されている『羅生門』なんかよりずっと以前に出逢った作品です。
それはよしとして、おっしゃるとおり『河童』が作品の根幹としてあるのは言うまでもございません。
ですが、単に意識したというわけではなくて、あくまでも設定に引用あるいは引喩したといった方が適当かと思われます。


ここからは補遺ということで、お恥ずかしながら作者の意図をつらつらと。
読者の感想を著しく減退させるおそれもありますので、スルーしても結構です。




『河童』に登場するポスターの中の謳い文句
“遺伝的義勇隊を募る!!!
 健全なる男女の河童よ!!!
 悪遺伝を撲滅するために
 不健全なる男女の河童と結婚せよ!!!”

そのまた後半に登場する長老の言葉。
“我々の神は(中略)雌の河童を造りました。すると雌の河童は退屈のあまり、雄の河童を求めました。我々の神はこの嘆きを憐れみ、雌の河童の脳髄を取り、雄の河童を造りました。我々の神はこの二匹の河童に『食えよ、交合せよ、旺盛に生きよ』という祝福を与えました。……”

これに早発性痴呆症の主人公であるとか、哲学者マッグによる「阿呆の言葉」などなどから設定を考えました。



ただ『河童」が芥川龍之介生涯の総決算ともいわれる痛烈な寓話であるのに対し、同じ轍を踏むよりか河童のぬめぬめとした質感から、禁断の愛をテーマとして取り出してみてもいいのではないかと思った次第。


そこで思い浮かんだのが筒井康隆の『姉弟』という短篇で、『姉弟』では姉と牛になった弟の間で無言の愛欲が交わされるオチなのですが、それをぬめぬめとした河童で表現したかったというのが本音であります。
近親相姦的な意味合いをボーイズラブの意味合いへ変容させた訳です。
河童と人間、それも男同士、すんなり愛欲が芽生えるかという疑問もありましょうが、それは前述の『河童』からの引用に基づくもの。
ラスト一文は主人公から河野君に対する友情や懺悔の言質に加え、そんな下世話な感情をも含めたものです。あとは、たとえ姿かたちはどうなれど河童のぬめぬめ感は消えないよみたいな。
もっと色々書きたいことは山ほどあったのですが、1000文字じゃ無理なので、これで精一杯。削って削って生まれた作品でした。


改めて言うなれば『河童』にインスパイアされ、『姉弟』にオマージュを捧げたというところです。
イタリア料理の材料で鍋をつくったようなもん(笑)


作者の悪知恵にも近い含意ですので、『河童』を読んでなくても楽しめるようには書きました。それこそ健全なる河童の物語として読んでもらった方が衛生的かと。
ですので、純粋に面白かったといってもらえれば何よりです。


来期もがんばります。





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