仮掲示板

96期感想(中)

11

群青 さん

 設定に目を惹かれました。腕が錆びはじめてしまったのが身から出た錆びと言われるというアイデアがいいなあ。
 でもオチはちょっと物足りないです。神と人との価値観が違うというのはわかるのですが、正反対に逆転しているとするなら、それをフォローするポイントが欲しかったです。
 あと文章がちょっと気になります。段落頭一字下げを入れる入れないがごちゃごちゃしてますし、漢字の使い方もどこか気になる。
 たとえば「錆び」と「錆」が混在していたり、成程や只管はあえて漢字にするメリットがあるかなと思ってしまいます。「悪行がどのいうものであるか」とかは誤字ですかね?

12
まぐろ
なゆら さん

 物語や設定は面白いのですが描写がとても気になります。
 マグロの手と言われても、胸ビレのことなのかそれとも人間のような腕が生えているのか迷います。走ってきたんだから手足は生えてるんでしょうか?
 でも直立して尾ビレでぴちぴち高速移動してても走ってると表現しそうだし……どうにもイメージがまとまらないのです。
 頬を赤く染めたとありますが、リアルなマグロ顔に頬はないので、漫画チックな擬人化された顔を思い浮かべればいいのかどうか。
 せっかく制限まであと四百文字以上あるので、情景描写がもっと増やした方がよかったんじゃないでしょうか。

13

わら さん

 楽しめました。歴史ネタを使いつつ、とぼけた落語みたいなユーモラスな話になっているのがいいですね。
 単にネズミが大量発生しただけでも大混乱を巻き起こせそうですが、そこにあえて「ぺすと」を持ち出したところが、味があって好きです。
 百地三太夫といえば石川五右衛門の師匠という逸話があるので、この四太夫が将来もしかして……と想像が広がるあたりも楽しい。


14
玩具
彼岸堂 さん

 無害な少女が大量破壊兵器を使いこなすという、中盤の派手な盛り上がり方がすごくいいと思えました。ですがその分終わり方があっさりしすぎているというか、ひねらずさらっとエンドマークを付けた感じがちょっと物足りなかったです。
 作中でずっと「ガキ」としていた相手が、最後だけ「少女」となるのも、表現を変えた意味がはっきりわからずもやもやします。
 最初の「栄転に次ぐ栄転がもたらしたのは、堕落だった」の文も気になります。堕落という表現は自ら落ちていったときに使うので、上からの命令でひどい境遇におかれた主人公に使うのは変じゃないでしょうか。


15
『3年2組の河野君』
石川楡井 さん

 面白かった。凄い良かったですこの話。これは芥川龍之介の河童を意識した作品でいいんですよね?
 最初は「なんでわざわざ同級生が河童? というか河童に記憶を操る能力なんてあった?」などと疑問に思いましたが、そこに気づいてからはすべてすっきりまとまりました。
 「記憶を操るおそれ」の一文で、今まで描かれていた学生時代の思い出がすべて信憑性をなくしたのに、主人公がまったくそれを気にしてないところとか。芥川龍之介の河童で、主人公が古い電話帳を開いて詩を朗読しはじめたときの喪失感を思い出してしまい、素晴らしかったです。


16
折合
エム・ありす さん

 文にすごいちぐはぐ感があります。「居酒屋のボックス席に座っていた」のすぐ後に、まるで過ぎ去ったことのように「金曜日の夜に大学時代の友人たちとお酒を飲んでいた」と続けるあたりとか。彼女から「ショートケーキ食べたい」と言われて、聞き返したのが「苺ショート?」と勝手に苺乗せちゃうあたりとか。「その昨晩」という表現も気になります。
 エム・ありすさんの前作はこんなちぐはぐな書き方をしてないので、主人公表現のために一人称の地の文を乱したのかなあとも思ったのですが、その割にはあまり効果が出ていないような。
 カエルの串焼きやぴょんという擬音の口論など、使われているネタにもいつもようなインパクトがないと感じました。


17
ツヨイ、ネガイ
謙悟 さん

 予想外の結末で楽しめました。予想できなかったけど納得できるあたりがショートショート。
 思考コントロールだとこういうことが起きますよね。マクロスプラスのガルドさんとかもそうでしたよね、アニメの話ですみませんが。
 やっぱりロボットには三原則が必要だなあと、アシモフファンの私は思ってしまいます。
 でも説明がやや過剰なのと、改行が多すぎるのがちょっと個人的好みから外れてました。


18
夢の女
yasu さん

 星新一の「さまよう犬」というショートショートを思い出してしまいました。たびたび同じ夢を見ることに悩まされ、最異臭的に夢に出てきた相手と現実で結婚しちゃうという流れが同じなので。と言っても千作も書いた人の作品と多少のネタかぶりしちゃうのはしょうがないと思いますけどね。
 ですがオチの理由説明が今ひとつ納得いきません。数回すれ違った女がブラウスのボタン多めにはずしてスカート短くしてたくらいで、毎晩の夢に見てしまうなんて大げさすぎる気がします。せっかく文字数が300以上余っているので、そのあたりの納得が行く設定を出して欲しかったなあと。


19
横っ面
金武マーサムネマサ さん

 それはタラちゃんじゃなくてイクラちゃんだろ! と、ツッコんだら負けですか。
 連想で次々と繋がっていく形式は面白いですし、「やはりな」のあたりで吹き出して笑いましたが、ボリュームがちょっと物足りない。
 絶対に千文字近く書かなきゃいけないというわけではないですが、短かく終わらせるべき意味が読んで伝わってこないと淋しいです。


20
喜びはいつも君のそばに
葛野健次 さん

 作品から流れる空気は悪くないんですが……これもボリュームが。
 千文字小説をあえて三百文字ちょっとで終わらせるというのは、「この話は長くしたら駄目になるの!」という印象が伝わってこないと、物足りない感じばかり湧いてきます。
 とくにこのサイトではほとんどの人が千文字近くまで書くので余計にそう思えます。
 しかしその印象を除いても「悪くはない」としか思えないので、たぶん私の好みから外れた作風なんでしょうねえ。

Re:96期感想(中)



〉 面白かった。凄い良かったですこの話。これは芥川龍之介の河童を意識した作品でいいんですよね?
〉 最初は「なんでわざわざ同級生が河童? というか河童に記憶を操る能力なんてあった?」などと疑問に思いましたが、そこに気づいてからはすべてすっきりまとまりました。
〉 「記憶を操るおそれ」の一文で、今まで描かれていた学生時代の思い出がすべて信憑性をなくしたのに、主人公がまったくそれを気にしてないところとか。芥川龍之介の河童で、主人公が古い電話帳を開いて詩を朗読しはじめたときの喪失感を思い出してしまい、素晴らしかったです。



ご感想ありがとうございます。
我が自宅の書棚に唯一収まっている芥川龍之介の作品は、昭和41年発行の旺文社文庫『河童・或る阿呆の一生』ということで、『河童』はそれこそ高校時代の教科書に掲載されている『羅生門』なんかよりずっと以前に出逢った作品です。
それはよしとして、おっしゃるとおり『河童』が作品の根幹としてあるのは言うまでもございません。
ですが、単に意識したというわけではなくて、あくまでも設定に引用あるいは引喩したといった方が適当かと思われます。


ここからは補遺ということで、お恥ずかしながら作者の意図をつらつらと。
読者の感想を著しく減退させるおそれもありますので、スルーしても結構です。




『河童』に登場するポスターの中の謳い文句
“遺伝的義勇隊を募る!!!
 健全なる男女の河童よ!!!
 悪遺伝を撲滅するために
 不健全なる男女の河童と結婚せよ!!!”

そのまた後半に登場する長老の言葉。
“我々の神は(中略)雌の河童を造りました。すると雌の河童は退屈のあまり、雄の河童を求めました。我々の神はこの嘆きを憐れみ、雌の河童の脳髄を取り、雄の河童を造りました。我々の神はこの二匹の河童に『食えよ、交合せよ、旺盛に生きよ』という祝福を与えました。……”

これに早発性痴呆症の主人公であるとか、哲学者マッグによる「阿呆の言葉」などなどから設定を考えました。



ただ『河童」が芥川龍之介生涯の総決算ともいわれる痛烈な寓話であるのに対し、同じ轍を踏むよりか河童のぬめぬめとした質感から、禁断の愛をテーマとして取り出してみてもいいのではないかと思った次第。


そこで思い浮かんだのが筒井康隆の『姉弟』という短篇で、『姉弟』では姉と牛になった弟の間で無言の愛欲が交わされるオチなのですが、それをぬめぬめとした河童で表現したかったというのが本音であります。
近親相姦的な意味合いをボーイズラブの意味合いへ変容させた訳です。
河童と人間、それも男同士、すんなり愛欲が芽生えるかという疑問もありましょうが、それは前述の『河童』からの引用に基づくもの。
ラスト一文は主人公から河野君に対する友情や懺悔の言質に加え、そんな下世話な感情をも含めたものです。あとは、たとえ姿かたちはどうなれど河童のぬめぬめ感は消えないよみたいな。
もっと色々書きたいことは山ほどあったのですが、1000文字じゃ無理なので、これで精一杯。削って削って生まれた作品でした。


改めて言うなれば『河童』にインスパイアされ、『姉弟』にオマージュを捧げたというところです。
イタリア料理の材料で鍋をつくったようなもん(笑)


作者の悪知恵にも近い含意ですので、『河童』を読んでなくても楽しめるようには書きました。それこそ健全なる河童の物語として読んでもらった方が衛生的かと。
ですので、純粋に面白かったといってもらえれば何よりです。


来期もがんばります。





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