#1 しじま
祖父の葬儀が終わったあとの夜に、従妹と他愛のない会話をしながら、昔のことを思い出すという話。
祖父や祖母といった、故人の思い出に包まれる感覚も悪くないなと思った。
#2 姉の体重計
「姉」が、何となく魅力的な人だということは伝わってきたし、少しエロい演出も読者(特に男性読者?)を惹きつける効果があると思った。
しかし、「姉専用の体重計」については、結局何だったのか分からず、丸投げ状態で、それをわざわざ題材にする必要があったのかなという疑問が残った。
#3 ロボット化できないもの
最近はAI化のことがよく言われているが、この作品に出てくるようにサービスのロボット化もあるかもなと思うし、そういう未来の姿を想像して描くのは、単純に面白いと思う。
でも、最後の「スマイル0円」は、ちょっとキレイにまとめすぎているような気がする。
#4 カレーと彼女
月末に家族そろってカレーを食べる、というエピソードは悪くないと思った。
しかし、終わり方が急すぎるというか素っ気なくて、どこか物足りない感じがしてしまう。
文字数もずいぶん余っているし、何かもう一つ展開があっても良かったんじゃないのか。
#5 大往生
「人類最後の一人」として生きることを通して、孤独とはどんなものかを表現している作品。
現実の世界でも、老いて独りぼっちになってしまい、孤独死してしまう人は大勢いるし、彼らは自分が死ぬ日まで、過去のことを繰り返し思い出すだけの日々を送っているのかもしれないと想像すると、胸が締め付けられる。
この作品は、SF的な描き方をしつつ、現実にある孤独を上手く表現していると思う。
#6 カフェオレ色の
前作に出てきた、舌ピアスの女の子側からの視点の話ということか。
舌にピアスをつけている理由はなんとなく分かったし、憧れているものに近づきたいという気持ちも分かるような気がする(ファッションや髪型を真似するのはよくある)。
しかし、舌にピアスを開けるのは、髪型を真似したりするのとはかなり違っていて、身体的にも心理的にも結構なハードルがあるだろうから、その部分の話も欲しいなと思った。
#7 ボーイミーツガール
同じ男女が、状況を変えながら何度も恋を繰り返すという話。
その設定自体はとてもロマンチックなのだけど、どこか覚めたような文章で語られているのが独特であり、この作品の魅力にもなっている気がする。
恋とは所詮ファンタジーだけど、誰もが夢中にさせられてしまうということを、物語で表現してみたという感じか。
#8 Num-Amidabutsu_ENTER
現実問題として、身寄りのない高齢者は増えているし、この作品の「プログラムの儀式」というサービスも、今後、実際に出てきてもおかしくないと思う。
とくに、ある程度年齢の高い人がこの作品を読むと、切実なものを感じるのではないだろうか。
それに、比較的若い世代でも結婚できない人が増えているので、「孤独」の問題はさらに大きくなるに違いないと考えると、とても怖い気持ちになってしまう。
#10 僕らがいる未来
仲のいい友達と離れ離れになるとき、こんなふうに相手のことを思いやることは、自分にはないなと思った。
まあ、お互いに元気でやっていこう、ぐらいのことは考えるけれど、この作品の主人公は優しいんだなと。