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※「⇒」以降の文章が私の感想です。

【第179期の感想/岩西 健治さん】

「冷蔵庫の物語」●
 生まれが月並みでない以上、冷蔵庫で終わろうが、別の何かで終わろうが月並みではなくなる。「月並み」という言葉が結局、作者の心情を吐露しているように思うのは、前作の戒めでもあると私には感じるからである。
 少し前、冷蔵庫から出てくるドッキリがテレビであった。
 手紙のやりとりや、別世界の妹が家電売場で冷蔵庫を担当しているのは滑稽であるが、独り暮らしの妹が家電量販店で働いていて、たまにメールをくれると捉えれば、それはごく当たり前の生活のようでもある。兄が妹の存在を認めれば、兄の葛藤はなくなるであろう。葛藤が消えれば小説とも捉えられなくなってしまう。このズレはとてつもないパワーをはらんでいる。それと、この作品には、ものすごくエロティシズムを感じる。「お兄ちゃん」ではなく「あにき」でもなく「兄さん」なのである。「兄さん」は年齢や性格を顕著にあらわしている言葉であるが、どことなくよそよそしい響きもある。そのよそよそしさに私はエロティシズムを感じた。
 また、最近の傾向なのか「好き」という言葉が気にかかった。そこで飛躍する。宇宙人と言い当てた彼女に対してようやく「好き」と言えたのではないのか、と。掲示板の感想にあった「作者と読者の関係性」という解釈は案外的を射てるのかも知れない。物語をフィルターにした作者の内面の描写なのではないのだろうか。
 ひとつ疑問が残るのは「はじめから私の気持ちを知っていたなんて嘘だ」の解釈がいまいちできなかったことである。はじめから知っていたという妹の言葉をそこまで否定する兄の気持ちが分からなかった。作者の返答を待ちたい。


⇒最後の方の「月並み」という言葉は、中盤に出てくる「そもそも現実というのは物語のように何かが起こる必要はない」という言葉を受けたものになると思います。無理して面白い話を書く必要はない(気を楽にして書きたい)という、作者としての内面の吐露でもあるのですが。
兄と妹に関しては、一方的に妹宣言をしたそいつに戸惑いつつ、徐々にその存在を認めていく流れになっています。しかし主人公の心境は少し複雑で、半分は認めつつも、どうしても認められない部分があるという葛藤した状態に置かれています。なので「はじめから私の気持ちを知っていたなんて嘘だ」は、どうしても認められない部分があるという主人公の葛藤の表現になるのではないでしょうか。とはいっても「はじめから私の〜」の部分は、なんとなく流れで書いたものなので後付けの説明でしかありませんが。
「兄さん」という呼び方にしたのも、なんとなく無意識にそうしたとしか言えないのですが、確かにエロいといえばエロいかもしれません。「お兄ちゃん」も結構エロいと思うのですが、「兄さん」という控えめな、気持ちを隠すような言い方のほうが、かえってエロティシズムを感じさせるということでしょうか。
最後の「好き」という言葉は、ここでは、妹という表面的な事柄を超えてその存在を肯定したいといった意味になると思います。前々作の宇宙人の話との関連については、前々作を意識して「好き」という言葉を使ったわけではありませんが、あるいは無意識の文脈のようなものに沿ってそう書いたのかもしれません。
「作者の内面の描写」という指摘については、今回の作品はその部分が強いかもしれません。今回は、アイデアがほとんど浮かばないまま締め切りギリギリに焦って書いたので、物語を作る余裕がなくて、とりあえず今自分が思っていることを拾い上げて言葉にする、という乱暴な書き方になってしまいました。締め切りギリギリに書くのはいつものことなのですが、今回は特に余裕がなかったのでこうなったということだと思います。

それから、作品とは関係ないのですが、岩西さんが最近取り上げている「コンテクスト」については、私も思うところがあります。主にハイコンテクストとローコンテクストについてなのですが、ようするに固有名詞の使い方が一つのポイントになるのではないかという考えが以前からありました。つまり、実在の地名や人名、商品名などの固有名詞を多用するとハイコンテクストになりがちで、その逆はローコンテクストではないかと。固有名詞を多用すると、現実感を出したり、微妙な表現ができるというメリットがある一方で、予備知識が必要になったり、読者を選んでしまうといったデメリットがあると思います。それに固有名詞は、イメージの情報量が多い(さまざまなイメージと結びついている場合が多い)ため、使いこなすのが難しい言葉です。なので、ただ固有名詞を使うだけではたぶんダメで、それを上手く使いこなせるかどうかが大きなポイントになるのだと思います。
もちろん、文脈というのは固有名詞だけの問題ではないと思いますし、もともと私は「コンテクスト」という用語で固有名詞を理解しているわけではないので、正しい解釈かどうか分かりませんが、自分の中では固有名詞の使い方で、作品の背景(文脈)が大きく左右されるという意識が常にあります。
それから、「コンテクスト」というのは、読む側であれば文脈を理解して読むということになるでしょう。しかし作者の側も、上手くその文脈に導くような書き方をすることが必要で、そうしないとコンテクスト自体が成立しなくなるのではないでしょうか。あえて、読者を突き放すような書き方もあると思いますが、基本的には、コンテクストを理解してもらうための作者の側の努力や工夫が必要になってくるのだと思います。

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