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第120期 #1 糸

かなしいなと思った。

殺人て極端な出来事で描かれているけど、友人関係、親子関係、男女関係、私的な人間関係なんてみんなこんなもんなんじゃないのかな、って思った。愛について「妄信」て言葉が使われているけど、愛のみならず「友達ってこうだよね」「親子ってこうあるべきだよね」という常識を互いに信じているからこそ、関係がほどほどに上手くゆくのだろうなと。そんなことを思った。
でも信じるなんておぼろげなことだから、ふとした瞬間に壊れてどうでもよいものになってしまう。人間にはよくあることで、かなしいなと思った。

お作法のことについて考えると、あんまうまくないなと思った。感想を書くために丁寧に読んだから、上述したような内容も汲みとれたんだけど、ささっと流し読みしていたら、ああDVの話ねみたいに思って読んだそばから忘れてしまったんだろうなと思う。そういう意味でDVというありふれた題材をもちこんだことがすでに作成時の失敗だと思う(あくまで「かなしいな」ということがテーマだったらってことだけど)。ありふれた感情を描くとしても、カタチが新しければ、それはとても善いことだ。忘れてしまっていたことを、あらためて思い出させてくれるから。
それから、悩みどころだけど、設定の曖昧さ。彼氏彼女はいくつだとか、これは室内の話なのか? 室内ならばソファは? ソファがあったとしたら素材は? 色は? みたいな設定が少ない。こういう設定がないから感情だけがよく見えるのだからこのままで良い気がするけれども、あったらあったで二人の切迫感みたいなものがより良くでたかなと思う。
構成は、俯瞰、彼女、彼氏、行動、みたいな流れで良かったと思う。

これ、最後、おやつのヨーグルトの取りあいみたいなので別れてしまった、みたいなことにしてしまっても良かったのかもしれないなと思った。暴力が、あっけないことで壊れてしまうっていうのも、何か軽やかさがある。
だいたい、知らない人を殺すよりも知っている人を殺すことの方が、戦争以外では人間は多い訳で、関係が相手を殺すことで終わるっていうのは実際驚きが少ないんじゃないだろうか。とは言え、この作品が殺人を描きたかったのならばほんと的外れなアイディアだけど。

暴力ヨーグルトとか、この地上では起きえないことかもしれないけど、言葉の世界では成立させうることはできるわけで、そういった作品を読むことはこの地上での不自由さ、息苦しさから解放してくれるきっかけを与えてくれる。だから言葉はすばらしいし、小説は率先してありうるべき状況を提案しなくてはならないなと思う。

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