文学賞の下読みさんになった気持ちで書きました。
なので少し批評チックになっているかもです。建設的に読んで頂ければありがたいのですが、なにせ舌ったらずな私のこと。失礼な言葉を含んでいるかもしれません。その点はどうか御容赦ください。
感想を書くにあたり公平性を重視したため、どの作品も全て一回読みとしました。もちろん正座しての一回読みです。
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★1 夢の男
推敲不足なのでしょうか。それともただ単に読み返しをされていないだけなのでしょうか。メモ帳に走り書きしたアイディアのように感じました。せっかくの面白いアイディアなのですから、大切に熟成させれば大化けしたのではないでしょうか。
★2 『ニューシネマパラダイム』
映画について造詣が浅い私には深く読めませんでした。
ただ、小説と対比させた件の「観客に対する警告」という言葉にはハッとしました。しかし残念ながらそれについての真意にまでは辿り着けず、妄想の範囲を徘徊するに終わりました。ですが相当な重みを含んだ言葉だなと感じました。
映画関係の予備知識を持ち合わせていれば、違った角度から楽しめたのかもしれませんね。その点が残念です。
★ 痛み
一段目の落ちで消化不良になりかけましたが、二段目の落ちでなるほどと感じました。一段目が落ちの布石になっていて、漫談に似て味わいがありました。ただ、最終へかけての丁寧さに比べ、落ちが唐突で投げっぱなしのように感じられました。
★4 どちらかはトム?
私は和訳された洋書が嫌いです。なぜならば翻訳者によって別物に作り替えられてしまうからです。しかしアメリカンジョークは好きです。ただ勿体ないことに、慣用句は翻訳不可能ですよね。
不要な前置きを並べましたが、この物語は直訳された洋書みたいな文章で構成されていて、さらりと読んだだけでは訳がわかりませんでした。たぶんアメリカンジョークになっているのでしょう。
読者に伝える努力も必要なのでは。
★5 僕のやるべきこと
一人称で書かれている主人公の僕が辿った内心の変化を語りたかったのでしょう。しかし残念ながら主人公の内心に添うことができませんでした。状況描写や心情描写、あるいはそれらの布石によって読者を誘導すべきだったと思います。あまりに主人公を突っ走りさせすぎで。これでは読者はおいてけぼりにされるしかありません。
★6 あるアパートの一室
結び付けたい落ちは理解できますが、これでは些か無謀で。まるで、投稿フォームで直打ちし完成に至ったように思われます。
作者が読む分には、脳内イメージによる補完のおかげで差し支えないのでしょうが。このままでは、なんの予備知識も持たず白紙の状態から読み取ろうとする読者に負担を掛けすぎです。
★7 発掘の日 さいたま
中盤までの展開は、なかなかのものだと感じました。読者の関心を惹きつける具合はかなり良かったです。興味深く読み進めることができました。それだけに落ちの弱さが際立ってしまい、読後感は物足りなかったです。
★8 銀行強盗
読点の打ち方はまだしも、段落をつけなかったのはなぜでしょう。
落ちなしで幕引きになるのかと思っていました。最終場面で強引に割り込まされた感のする落ちは、唐突すぎて鳩に豆鉄砲状態でしょうか。
この物語に「臨場感が不足している」なんて感想を書いてしまうと。主人公の友人に「論外だ」といわれるのでしょうか。
★9 桜の坂道
推敲を重ねることで完成度を高められたのではないでしょうか。一般的ではない助詞の使い方に、読み足が躓く箇所がありました。
いいたい事はなんとなく理解できましたが、言葉が不足しているように感じました。文字数を大幅に余らせていて勿体ないです。余った文字数で、語りたい主題(気持ち)をストーリーに載せることができたのでは。
★10 1番ショートコウタ背番号6
元々ファンタジーは苦手なのですが、苦手のど真ん中を刺された感じです。まずは非現実の設定が必然に欠け、背景を受け入れられませんでした。そして脈絡を欠くストーリーが残念。納得の落としどころからは程遠く感じました。やはりSSは、読み終えた瞬間に唸らせられるかどうかが肝心だと思いました。
★11 3分間
部分的に素敵な表現がありました。全体については、もう少し慎重に言葉を選べば、より良くなったのではないでしょうか。残りの三十三文字で落ちに厚みをつけて欲しかったです。そうすればもっと読み応えのある作品に仕上がったはずです。
★12 コーヒーゼリーと都会の月
なんということのない切り取られた一場面なのですが、その裏に潜むなにかを感じさせてくれました。書きなれた達筆さとあいまって、文字以上のメッセージを受け取った気がしました。
しかし……コーヒーゼリーと月になにを掛けたかったのか。極めてノーマルな私には想像がつきませんでした。
★13 ウナギとカメ
落ちが弱いからでしょうか。筆が走っている割にはストーリーに起伏が乏しく「やっぱそうなっちゃうのね」的な感想しか懐けませんでした。
具体的な史実を背景にすることにより、物語のBGMとしての効果を発揮させることができるんだなあって思いました。
★14 アイヨリモ、コイナラバ
一人称で書かれているのに、セリフの口調と地の文の調子が懸離れていて違和感をうけました。癖のある漢字の“ひらき”も読み辛さの一因となっています。主人公の心情にかなり気を使って描写してあるようなのですが、その変遷に戸惑いました。
ネタが新鮮なだけにもったいなく感じました。
★15 忘れるを知る
特別ストーリーに秀でた部分があるわけではないのですが、妙に納得させられました。文章の安定感も好印象のひとつだし、しっかり書き込んでいるなと感じさせるものがありました。
ハッとさせるような意外性のある落ちでない場合は、じわりと伝わるようそれなりの文字数を割いた方が納得させやすいのかなと思いました。
★16 冬の思い出
私の読解力がたりないのか、一回読みでは理解し難いです。
特に「河川敷の公園〜」から以降は回想シーンだとしか思えなかったです。なので最後の部分を読み終えて悩みました。
そして、ラストがどうなったのか。女以外を全員轢き殺したのでしょうか。想像することはできますが、空白が多すぎて作者の語りたかっただろう真実へ辿りつけませんでした。なので落ちが取って付けたように見えます。
★17 羽化と、その後
凝った言い回し方で組み立てられているのですが、言葉の選びに気を使っていないため、読みが躓いてしまいます。
大幅に文字数が余っていますが、このサイズに圧縮することで得られる効果は見当たりませんでした。もっと書き足すことでネタを引き立たせることができたはず。アイディアは悪くないので勿体ないです。
★18 ニルヴァーナ
巧みな文章で、確かな安定感があります。それだけに構成のまずさが勿体なかったです。
「ラベル」が布石になっているはずなのに、それが回収されていない。敢えて回収しないことで読者に想像させようとしたのかもしれませんが。これだけ書ける人なのだから、やはり「技あり」の展開で唸らせて欲しかった。
★19 ダイエット
句読点に気を配るべきです。ネタ的に、もう少し工夫が必要だったのでは。あまりにも王道すぎます。ここ一発でのボケに期待しながら読んでいたのですが、想定通りだったので物足りなく感じました。しかし、破綻しないスムーズな流れは良かったです。
★20 景色
お約束違反で二度読みしてしまいました。一回読みと決めていたのに、二度読みせずにいられませんでした。二度読みして感じたのは、かなり圧縮してあるので、言葉の裏に様々な意味が隠されていたのだなということです。
上質な騙し絵を見ているようで妙に納得させられ、内容とは裏腹に爽やかな読後感でした。この読後感はどこから来るのかなと考えてみたのですが、積み重ねられた推敲の賜物なのかなという結論に達しました。できれば残りの百二十二文字も駆使して欲しかったです。
★21 ダークマター
たった千文字なのに不必要な余談が多すぎます。手を広げすぎてストーリーの芯が弱くなっています。
水晶の件でネタバレに繋がりかけましたが、まだ中盤なのだからなにか裏があるだろうと期待しました。しかし放物線どおりの着地点で、底が浅く見られそうです。手を広げるよりも、二段落ちやどんでん返しに文字数を割いた方がよかったように思えました。
★22 暗闇
ファンタジーは苦手なのだですが、これは良かったです。煩悩の深さを思い知らされた気がしました。
文章も構成も破綻することなく纏められていて読みやすく。読者の誘導もしっかりできていました。
★23 お母さん、僕はここにいるよ
昔話調で、物語的な完成度は良くできていると感じました。
仕上げに気を使ったせいなのでしょうか。その分、起伏に乏しい展開で物足りないです。書き込むことで読ませきって欲しかったです。
★24 天然
いわずと知れた自作品です。自作品にコメントを書くのも難しいので、ここはひとつ解説で御勘弁ください。
どんな反応をもらえるのか楽しみにしておりました。というか、どこまで読み取ってもらえるのか心配だったというのが正直なところでした。これは、そんな実験的な掌編です。
「あんまり酷いから読めないよ」なんて言わず、取り敢えず最後まで読んでみてください。
★25 春はトンカツ
写実的に書かれた抽象画を観ているような気分になりました。なにを語りたかったのか判断つきかねているのですが、そこへ無理やりにでも想像を膨らませ、何某かの結論または教訓のような、はたまた思想的な方面へ繋げてゆかなければならないのか。そうすることで深みを見出すべきなのか。それともあっさり読み流し、漠然とした印象を楽しむべきだったのでしょうか。
★26 卵
日本の映画を観ているような気分になりました。
文章が短く区切ってあり断片的で。いま流行のケータイ小説のようなスピード感があり、この手の書き方を一般的には読み易いっていうのかなと思いました。読み専門の読者からすれば無難なのかもしれませんが、執筆を知っている読者にとっては物足りないです。答えまで文章化する必要はないですが、答えを匂わす言葉を織り交ぜておくべきなのではと思いました。
★27 犬の木
花咲かじいさんの童話を連想しました。
似た設定はどこにでもころがっているものですが。あの童話はあまりにも有名で。読後どうやっても拭い去ることができませんでした。類似ストーリーを選択する場合は、やはり破壊力が必要なのではと思いました。良くも悪くも、既存のイメージを砕き尽くす破壊力が。