削除された作品が盗作であったとしたら、という仮定を前提にした意見ですが、なぜそれが『短編』に投稿されたのか、という疑問が生じます。
『短編』で優勝する、あるいは決勝進出することによる利点には、何があるでしょうか。賞金はなく、賞品はバナーです。金銭的な利益も社会的な名誉も得られない場で、優勝するという行為に利点があるとは私には思えません。優勝すること以外の目的について私が思いついたのは、『短編』の批判ということです。もっと面白い作品はネット上にいくらでも転がっている、こんな作品で競っていることがくだらない、そういった批判なのではないだろうかと私は考えています。もっとも、私などの場合は、たとえ批判があったとしても努力しようとは思わないのですが。
北欧だったでしょうか、『海賊党』という現行の著作権の概念に疑問を呈する党が勢力を伸ばしているそうです。『短編』はアマチュアの活動なのですから、個人の満足がもっとも大事なのだと思います。目くじらを立てすぎて無駄な労力を割くこともどうかとも思います。良い作品は良い作品と認めていけば、それで良いのではないでしょうか。
少し、極端な意見でした。笹帽子氏が張ってくれたリンクまでなくなってしまい、削除された作品を先に読んでおかなかったことを後悔している黒田皐月でした。
では、残りの作品の感想を。
#1 横紙破り
劇的な展開も特異な表現もないのだが、確実に描けているという印象を持った。何かの拍子に何気なく祖父のことを思い出した、というところだろう。強いて難を挙げれば、最初の一文がそういう言い方で良いのだろうかということがある。
#2 あたしジャスティス
「それでこの通り〜」から、ふっ、とおかしくなっているその転換が良いように思った。おそらく正義の味方をしながら受験生するつもりの主人公なのだろう。『テロリスト〜』を投稿した身としては、やられた、という気分である。
#3 自動記憶装置
毎回面白そうな発想を武器にする虎太郎氏なのだが、私はこれは失敗作だと思う。別人格として作ってしまっては利用者の思うとおりに動作するとは限らず、機械は機械の分を守るべきであろう。
書き方の難を挙げるとすれば、「博士が二人いるようなものだ」だろう。ひとりで二人分の仕事をするから素晴らしいのであって、二人で一人分とも読めるこの表現ではない方が良いと思った。
#4 アレ
最後の「あれ?」がそれまで連呼されている「アレ」とどうつながっているのかがわからなかった。すなわち、最後の「あれ?」の必然性が理解できなかった。
この男は主人公からもらうものをもらうだけなのか。
#5 モトカノ
幸福の中でふと別の、それとは両立しない過去の幸せな思い出を思い出してしまう、人生は紆余曲折なのだからそういうことはあると思う。本作はそれをささやかに描いている。会話文が優しくて、幸せな気持ちになれるような気がする。
#6 真紅の瞳
最初の四文は、存在意義としては山場である怪物との遭遇を暗示するものなのだろうが、私にはどこにどうつながっているのかまるでわからなかった。そして、男の渇望が絶望に変わった理由もわからなかった。男は怪物とは別の何かを半地下の部屋に期待していたのだろうか。
このふたつに比べれば些細なことだが、男が鉄の揺りかごに閉じ込められる理由もわからなかった。
#7 木戸中尉の決断
この状況で、本当にそういうことを思えるのか。正義の戦争であると教育されて戦ってきた歴戦の戦士が、今さら一機を落とすことだけに罪悪感を持つのだろうか。史実を下敷きにするのならば、特に戦争を扱うのならば、そういったことには注意深くなければならないと私は思う。
#10 Devil
過去に主人公が義兄に殴られていたときに妻が笑っていたとはどういうことなのだろうかと思ったのだが、笑うように命令されていたのかもしれない。恨み、骨髄に染みると言ったところだろう。
取り立てて褒めるべき点は見つけられなかったが、同時に挙げるべき難点もないだろう。
#13 幼稚な嫉妬
のい氏がこの種の作品も描くことが意外に思った。しかし私自身が過去に、死から離れた作品も描いてみてはどうだろうか、と言っているのだから無責任な私なのである。ごめんなさい、これはただ甘いだけで好みではない。
強いて何かを挙げるとすれば、冒頭の「馬鹿で純粋で単純な馬鹿」と馬鹿を二回用いていることが馬鹿っぽくて良いような気がする。
#14 おばけ
やけに大仰に描く手法が面白い作品だと思った。それでスタンダードな話かと思いきや、うらめしやを連呼するという変化も見せてくれる。これはなかなか工夫されているのだが、主人公の年齢は歯の生え変わる年よりもずっと下の方が良かったのではないだろうか。
#15 行動1つで幸運は君の元さ
締めはそれだけで読むと良いと思うのだが、ここに至る経緯、もっとも肝要な原因の部分で読みにくい、と言うよりもおかしいだろう箇所があったので、良い作品には思えなかった。感想としては、それがすべてである。その箇所は、「俺が小5の時に親を口説き落として買ってもらった愛犬コロ――名前に似ずシェパードなのだ――が俺の親から貰っていたらしいおもちゃを友達と遊んでいた際にうっかり裏山へ放り投げてしまったのだ」。述語「放り投げてしまった」の主語はどれだろうか。私は「愛犬コロ」だと読んだのだが。
#16 うちの兄りん
えっと、NH2基は大抵不安定なものと相場が決まっていたのでしたっけ? 可燃性までは度数が高いのだろうかと思えるのだが、そこからどんどん脱線していく。「僻みの度合いが増してくる」と変遷させておいてどうまとめるのかと思いきやあらぬ方向へ行ってしまい、希望の持てない世界にできている、と思う。
#17 200Q
社会という何とも形容できない何かの型を押し付けられて、型に合わなくて傷ついた部分がその人の個性である、の視点に感心した。「街が東京みたいになった」という表現も、閉塞感を表現するもっとも短いものを選択できているだろう。そんな中で、それでも生きていこうという気持ちを何となく示していて、読者も何となくほっとできる作品になっていると私は思った。
#18 『混沌の神の創り方』
中盤、投下されるものがどんどんおかしくなっていくが、それは実は主人公の過去から現在に至る歩みであるようだ。そして最後には自分もそこに落ちる。救いのない話だ。
神とは人間の強い感情が生んだ想像の産物、という視点からできているのだろう。
#19 あいつ殺そう計画
番長という存在が現実世界から消え去って幾年月、こういうことになるのだなあと時代というものを思った。ただ単に救いのない話を書いて、何か表現したいものがあったのかということを疑問に思ったのだが、そういう感想は持ってはいけないのだろうか。
#20 成せばなる
特殊相対論の前提である、光速不変の原理。ある系からそれに対してある速度を持って移動している別の系を観察したときに、別の系においても光速は元の系と同じである。そこから演繹して、ある系に対して光速に近い速度で移動している別の系における時間の流れは、元の系から見ると遅いものであるということが説明される。「元の系から見ると」ということであり、別の系では別の系での時間が流れている。……調べずに書くと何ともわからない表現だ。何がおかしいと思ったのかと言うと、トイレットペーパーの芯を光速で回転させてもトイレットペーパー以外の時間は戻らないということと、それ以前に相対論では光速を超えることは定義されていないということの二点である。
「脳内に浮かんだアインシュタインの顔のディテールがかなり曖昧だった」というのはよくあることと共感できる、作品の雰囲気に合った良い表現だと思った。
#21 センチメンタル・スモーキング
好きなものをやめるのは大変なことであり、そういうものだと思う。この作品にも劇的な要素はいらない。確実に描けているので、それで良いと思う。
「そう呟きつつもシガレットケースをポケットにしまう」の部分はなぜ「も」があるのだろうか。屋上に捨てていくわけにはいかないので、ポケットにしまうのが普通の行動だと思うのだが。
#22 児っポwriter
下卑たおじさんが似合うこのおかしな世界を描けるのは誰かと思いきや、久しぶりのRevin氏だった。何を思えば良いのかわからない世界なのだが、表現としては「一回性を理解せず怯えるだけだった澄佳にはできなかったし」の部分が、なぜここで「性を理解せず」ということが関わるのか、さらになぜ「一回」なのかということがわからなかった。
岩窟王のように仮死状態になって抜け出せば良いのではないだろうか。
#23 分母の現実、分子のキリン
社会性が崩壊し、人類が滅びる日を描いた作品なのだろう。題名は、キリンのためにと割り切った覚悟ができるか否かということを示しているのだろうか。滅びるのならば滅びれば良いと思うのが私の感想、と言うよりも私の信条である。
#24 継承者
まるで読みきり漫画のごとくきれいに物語がまとまっている。漫画を例えに挙げたが、しかしこの世界は漫画では描けないものだとも思う。国内最高学府が普通の世界の最高峰とされるなどの記号的扱いが、描くものに対して合っている表現だと思う。
この世界も滅びれば良いと思うというのが私の感想、と言うよりも私の信条である。
#25 水場で書かれた物語
感想を拒否しても良かったが、まあ何だろうそういうものかと言ってみる。そう思えるだけ描けている作品だと思ったことを伝えたいからである。
#26 腹の中
人間は、あるいはこの世界のすべてがと言うべきかも知れないが、本当は美しいものなどではないということを暴露した作品と私は読んでみた。
「腹を切り裂き皮を剥がし濃桃色の汚物を白日の下に晒す」がどこから来てどこへつながる心情なのか、そもそもどちらの人物に対して持った想像なのかわからなかった。私がわかろうとする気がないからなのかもしれない。
#27 Pluto
惑星の定義が変わったその年、降格されられることが冥王星に例えられたことがあった。しかし冥王星がなくなったわけでもなく、名前が変わったのでもない。なので、この作品は前提がおかしい。それ以前に第一文から間違ったことを言っている。
「一目見たら分かった。君からだということが」のように倒置させていることが感傷的な表現になっていて、それを第四段落でのみ多用していることは効果的な使い方だと思った。
#28 雪山の夢
これは上手くまとまった作品だと思う。寂しさの中、本当に自分には何も残っていないのかというところで最後に少しだけ希望を持たせてくれる。読点の多い朴訥さが、それを効果的に読ませてくれているのかもしれない。クマの子氏の描写力は、あまり空想世界に行き過ぎないところで用いた方が良いのだろうか、とふと思った。
#29 御老人、
反社会勢力の典型的な言い分に聞こえた。加えて言えば、左派的ではなく、右派的。
「これでまた失敗だ」と言っているが、この種の失敗は何度でも繰り返せるものなのだろうか。「壁際の警備員がこちらを狙って撃った」時点で二度はないと思うのだが。それから細かいところだが最後の部分だけ一人称が変わっている。
#30 天才嫌い
話としては上手くまとまっていると思うが、表現は雑である。「奴ら」と「あいつら」と「あいつ等」の不一致、「天才呼ばわりされて鼻の下をのばしている」は鼻の下ではないだろうことが目についた。
ところで、秀才に才気というものはあるのだろうか。
#31 3という数字の秘奏性と虚造性と魔想性を考察するべくなされた一つの小さな空想譚
3という数は、多数を表す最小の、即ちもっとも基本的な数である。例えば「第三者」という言葉は、自分と相手以外に世界を構成するものがあることを示している。ということを思って作品を読んでみたが、違った。3という数に求めていたのは、リズム性だったらしい。過去の文学作品のような雰囲気を持っているような気がしたが、どうだろうか。
ところで「五体不満」と「五体不全」とどちらが正しいのだろうか。
#32 燃え上がる布団
燃えているのか燃え残っているのか燃え尽きているのか、わからなかった。眠れないということは大変辛いことなのだが、それをどうしようとしているかも、布団が燃えることに集中してしまっているために、見えなかった。それから、「瞼を閉じ静かに寝息を立てる少年は、まるで乾涸びた屍体のようだ」という表現がどこから来てどこへつながっているかも読み取れなかった。
ただ単に私が読めなかったということだろうか。
#33 ぺんぺん草
私にはそのようなことはなかったが、子供時代には大人が感じなくなってしまったことで世界が満たされていたということは、あるものだと思う。あるいは、私が漫画チックにそう思いたいだけであり、現実にはそんなものはすでに消失してしまっているのかもしれない。
小さな、まとまった作品だと思う。難点は見当たらない。
#35 テロリストという職業選択
登場人物を死なせたのは五回目。けっこう高確率だ。人が死ねば話になるのか、という別の作品への感想を、二枚舌だ、と批判されたことがあるのだが、それ以降でも二回目だったりする。
途中、飛躍が大きいのだが、私にとって最大の説明のない飛躍は、「しかし俺に見えたものは、すべてがくだらない世界だった」だったりする。
#36 花火の夜
これも小さくまとまった、やや散漫だろうか、作品だと思うのだが、使う小道具が宇加谷氏らしいのだろう。それが独特な空気を作り出していると言えるし、散漫な印象にもなっているのだと思う。
#37 預言者
まともではない主人公に見えるのだが、これが失った恋人を想う気持ちだと言えば、それはまったく否定できないとも思う。
#38 砂漠と雨の日
「くだらないゲーム」が何かを暗示していると思ったのだが、最後になって主人公の方がマボロシと呼ばれたことで、砂漠の世界が虚構であって、その外にある現実の世界をくだらないと言っているのだと私は理解した。過酷な虚構世界の中で、まったく異質なものを相手にさせられるというのは、かなり辛い夢見なのだろう。それだけ現実世界の主人公は厳しい状況に置かれているのだろうか、と同情したくなった。
#39 鋼鉄の戦神
夏が来れば思い出す、原爆忌に終戦記念日。長年使ってきたものを捨てることが惜しい気持ちなのだが、なぜ例えに兵器を選んだのかという疑問は持ってはいけないのだろうか。
「時の流れに敗北し」という表現は上手くないように思った。敗北という戦いに関わる言葉を使わないべきではないだろうか。
#40 夏休み
温かな気持ちになれる作品だと思う。こういう気持ちが描けるようになりたい。
本作とは関係ないことなのだが、なぜ私は各期の最後の作品の感想を書けないのだろうか、とふと思った。