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○わらさん、qbcさんへの返信
○#29サーカス、#26岩感、#27「愛なき者」の感想



わらさん、qbcさん、感想希望ありがとうございます。それでは今期より作品の感想を書かせていただきます。よろしくお願いします。




#29サーカス

 後輩の結婚式における主人公「俺」の視点による人物批評の話、だと読みました。

 この主人公はちょっとストレスがたまりすぎている気がする。たぶん根はいい奴なのだと思う――主人公は花嫁からの手紙で泣いてしまったり、そんなことを気楽に相談する相手もいれば、話を立ち聞きして加わってくるような友人もいる。

 さらに大学時代にさかのぼると、「アルハンブラ宮殿の思い出」(感傷的だが名曲)を弾くために借金をしてまでもギターを手に入れたり、今回の結婚式もその借金相手でもあった後輩に、嫁と娘といっしょに招かれているのである。

――こういう設定だけを読むと、この34歳の主人公はとても幸福にさえ思えてくるというのに、話を読むかぎりでは、どうもそう単純ではないらしい。

 まず、なぜか主人公は後輩に金を借りてまでギターを習ったことについて、「金を借りてしまった」ということに異常に執着して後悔している。ちゃんと金を返したならいいじゃないか、といいたいが、主人公の論理ではそうではないらしい。

 私からすれば、そのおかげでギターもうまくなったのなら、この披露宴で「三島のおかげで俺はギターがひけるようになった、ありがとう。この曲を君たちに捧げます」とでもいえばいいじゃないか、と思うのだが、34歳のこの主人公がこだわるのはあくまでも金である。ここにこの主人公が社会生活で得たものと失ったものを想像することができる。だが、それはなんだかとても現実的でかなしいね。

 しかし主人公の金をめぐる思いは「後輩への借金」のこだわりのみならず、出資者が後輩ではなく後輩の父親であったことが、さらに主人公には腹がたつことらしく、その父親をまるで恥をかかされた仇のように見つめていたりする。

 冒頭に主人公は友人に囲まれる人気者だ、と書いたけれども、実は主人公自身はこの友人たちのことについても、まったく評価していない。一人は調子のいいおしゃべりものだと判断し、もう一人については話かけてきても無視している。

 そして主人公は結婚式の主役でもある後輩夫婦を眺めながら、自分がすでに既婚者であることを忘れて、彼らが夫婦になるということについて、思いをめぐらしている。隣では子供を抱いた妻が、夫の無配慮さに呆れて文句を言うが、主人公にその声は届かず、このまま結婚式をめぐる描写はおわってしまう。

……これはちょっとさびしい話だな、と思った。話全体が主人公「俺」の一人称であるので、この小説を評価するには、読み手の私が「俺」の考え方や行動をどう思うか、ということが大きく関わると思うのだが、私はちょっとこの主人公「俺」の考え方は、どこか人間をなにかの枠に一面的に当てはめているように思えた。

 もしも私がこの題材を元に話をつくるならば、
(1)やはりこの疲れてしまっている、元素直な主人公をなんとか救うための伏線をはりたい。それは偽善としての救いではないが、やはり作者は自分の信じる「善」のかたちに主人公を導いていく志のようなものがあるべきだ、と個人的には思っている(昔はこの部分を宗教が担当した)。

(2)友人も三島夫婦もその父親も妻も娘も、でてくる人物すべてが主人公には不愉快に映っているが、それでは彼らの負の一面だけしか描かれておらず、全体のバランスが悪すぎるので、なんらかの彼らの長所を活かしたい。

(3)三島の親父はキーポイントだと思うが、活かされていない。たとえば彼がすでにボケてしまっていた、だとか、なぜ三島の父親は気持ちよく金をかしたのか、なにか活かしたい。

……ということを思いました。



#26岩感

 今期、この作品の推薦感想に「ガーンときた」というのがあったと思いますが、この作品の要点を一言でピタリといいあてたすごいコメントだと思います。

 私も「ガーン」ときました。話そのものは結構単純だと思う。別れ話をするために喫茶店にいる恋人たちであるが、男はなにか違和感を感じていて、それは喫茶店においてある「岩」が原因だったのであるが、よくみるとその「岩」はお地蔵さんで、別れ話がピークをむかえていくにつれ、主人公は自分自身がそのお地蔵さんになっていく心地がしてきて、しまいにはキレた女がスプーンを投げつけると、そのスプーンは地蔵になった主人公にぶつかって、ガーン、となる……。

 多分、こういう話は、あまり1000字小説を読んだことのない、一般的な人がパッと手にとって読んだりすると、とってもウケるだろうし、他サイトのコンテストなどでは優勝したりするんじゃないかな、と思いました。オチがよめそうでよめないし、「こんな話を読んだんだけど」と、誰かに話せるくらいに、流れが整理されている。

 ただ、1000字小説をこれまで累計で何百読んだのだろうか、という、ややひねくれた私などが読むと、「ガーンときた」だけでは物足りない。たった原稿用紙2枚半のなかなのに、そこに、「その文字数で大長編を予感させるような広がりや、複雑に織り込まれた伏線や、作者自身の深い観念が織り込まれていて、なおかつ単純であること」などなど、とても要求が多くなってしまう。

……そういうわけで、私はこの「岩感」は、本来なら投票候補になるほどのすばらしい作品だと思うけれども、深さにおいても広がりにおいても「爆弾彼女」に及ばないと思ったし、その「爆弾彼女」よりも文章に技とキレがあって、なおかつ読み手に、平凡な暮らしのなかに隠れているささやかなよろこびを意識させてくれた今期の「猫」、そして、なんといっても、「短編」では大人気だった<るるるぶ☆どっぐちゃん>の一連の言葉のマジックよりも私は、伝統を咀嚼したうえで自分の書きたいことをしっかり書いている、正統なシュールレアリスムを見事に1000字でつくりあげた今期最高傑作「rot ion ape = 面会 晩餐 仮」と比べると、やはりこの「岩感」はわかりやすぎた感が否めません。

 私としては

(1)男は最初から最後まで受け身側であり、女は最初から最後まで怒鳴っている一本調子が気になる

(2)岩になるオチ一本だけで推していくのは……

の2点について考えました。蛇足ですが、私はこの岩男が

・ある日失業したばかりの主人公がうっぷんをはらすべく失業保険のもらえるあいだ身体を鍛えようとスイミング・スクールへ通う

・水泳後、室内プール付設のミストサウナに入っていたら練習場としてつかっている女子大水泳部のメンバーがやってくる

・男はおもわず顔を赤らめ、興奮を鎮めるべくお地蔵さんをイメージする。すると男の股間が岩となってもりあがり水着をぶちやぶる。その「岩の股間」に驚きながらも興味を持った女子大生の一人が男に「き、きっさてんにいきませんか」と声をかけ、付き合うようになるが「岩の股間」で男はモテまくり、

・いつしか出会った喫茶店にて女から別れ話を始める。女は「あんたなんか!」と何度もいいながら、店内に飾ってあるお地蔵さんをみるうちに顔を赤らめ、男はそんな女をみていると鉄のジーパンをはいていたというのに、岩股間が鉄のカーテンを貫通する。

・「お地蔵さんはみんなのモノだよ」という男の言葉でラストはしめくくられる。その様子をウエイトレスが柱の影からみている。

……という話がさっきから何度も脳内を画像付きで浮かんでくるので思わず書いてしまいました。



#27「愛なき者」

 失業したが、退職金などで当面の生活に困ることがない男が主人公。悩みの種は食うことよりも、仕事をやめて(やめさせられて)はじめて自分が仕事以外の場で誰からも必要とされていないように思われて、それで自殺まで考えるがそこで両親の存在を思い出す……という話だとよみました。

 書いてある内容はとても切実で、まさにこんな気持ちを抱いている人はたくさんいると思うし、これを読んだ私も、それほど他人事とはいえない。

 でもだからこそ、あるがままをあるがままに書いても、私はそれでは人の心を揺さぶることができないのではないか、という気がする。

「泣きたい衝動は加速して、それがさらに思考を阻害した。そのうち、もう私は死ななければいけない、としか考えられなくなった。」

という部分などは、作者が直接書いてしまうと、読んでいる私は、たとえばもしも私が同じような状況であったとしたら、むしろリアルすぎて、ここから先を読む気がなくなってしまうだろう。

 もう少しここのところを詳しくかくと

「泣きたい衝動は加速して……ってこんなん、自分で言うもんなん? 衝動は加速って、思考を阻害した……って、これって自分のこと書いてるんやろ? 自分のことを衝動加速とか思考阻害とか、そんな熟語で書くってなんかナルシストっぽくない? 私は死ななければいけない、なんか、そんなん書くのって恥ずかしいわ」

……というのが実のところ、私の本音の感想である。というのは、やはり、この話に書かれているようなことはみんな誰もがうっすらと言葉でない部分で思っていることで、それはこんなに簡単に言語化してほしくない。

「世界の中心で愛を叫ぶ」

という題名を本屋ではじめてみたときに瞬間に感じた恥ずかしさにとても似ている。でも、こういう直接的な言葉の痛さが一般受けする時代であるので、それを考えるとこの「私は死ななければいけない」みたいなのも今では普通なんだろうか、と考えると、なんとなくユーウツになってしまう。

 本来、私はこのストレートさは嫌いではないがやっぱり扱っているテーマがナイーヴなことで、しかも最初から最後まで内面吐露に徹しているので、読んでいておもしろくなかった。ここまで深刻に悩む主人公が誰かが床におとしたバナナの皮でもふんでひっくりかえったりして、すべって転んでもまだ

「僕は……さびしい」

なんて呟く場面などがあったら、まだ私はその滑稽さに緩和されたナルシシズムを受け入れられるかもしれないが、笑えるところが少しもなかった。

 ここに書かれたテーマはとても深刻で時事的であるので、もし私ならばこれを元にして内面の吐露部分をまるごとカットして、実際に主人公がおこなった行動の描写を丁寧にえがきたいと思う。

 たとえば失業した主人公は、退職金もあるので、縁結びの神社にいった帰りに、スイミング・プールで泳いだりしたらどうだろう。するとそこに女子大の水泳部の連中がやってきて、ふいに股間が岩に……やがてモテモテになって知り合った彼女と結婚式をあげて、かつての先輩夫婦たちを呼んだ壮大な結婚式を行う結末とか……。


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