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「最後の色相」
 悲哀や寂然を語ることで、作品を仕上げている。もう出会うことのない、リオで出会った彼女との思い出の描写だと推察したが、その喪失感を色が失われていくという比喩で表現している。ただ、色相とは色の相違であって単独では成立しない。だから、最後の色相とは少なくとも二つの色の関係性であり、そう考えると少し違和感の残るタイトルである。
 観念が強い小説なのは良いとして、これを読んだときの感情は、どこかデジャビュを思わせるものがあり、悲哀や寂然が小説の中で新しい境地を切り開いていないと感じてしまった。

「ババーキッチャ」
 ひとつ間違えば、単なる嫌がらせやいじめであるのに、それでも繋がっていたい幸美に純粋(あるいは無邪気)な部分を感じてしまった。もしかすると、好き嫌いとは関係なく、ある集団の中で生きていかなければならないことを幸美は無意識的に感じ取っているのかも知れない。それは神話的であるとも言える。
 たぶんこの先、幸美と富江の地位は入れ替わるとわたしは考えている。他者から見れば歪んだ世界に映るかも知れないが、循環するひとつの世界であると考えれば、完成された世界であるとも言える。何かの縮図を象徴させる素晴らしい作品だと思った。

「愛の渇望」
 ここにおいての愛とは恋愛であろう。ただ、ここに書かれていることは愛と言うより、感情の激しい起伏・衝動のようなものである。文の中ほどで「きっと私はこれからの人生、本当の愛を知らないままに一生を終えて行くのだろう。」と悲観してまっている時点で、主人公が愛を知ることはないだろうと思ってしまった。また、最後で「『愛』の先を求めることを止められない」云々と言っていることには、愛自体を知る前に愛の先を語ることへの不自然さを感じた。
 全体に小説ではなく、作者の独りよがりを連想させてしまうのが残念である。ちょっとテーマが大き過ぎたかも知れない。

「人間型」
 人間型にはどういう意味があるのだろうと考えた。わたしなりの解釈をすれば、相談にきた青年も実はまた、異常であって「人間のカタチをした」あるいは「人間の皮をかぶった」というような喩えだろうか。
 書き出しは夢野久作のような印象を持った。口調が古くさく感じたが、内容については申し分ない。改行なんかを工夫すればもっと良くなったと思う。

「魔女会議」
 魔女という妖艶さと少女という幼児性の対比。世界観は素敵である。少しもたついた文章を修正すれば、より良くなると思った。

「アンドロメダ」
 印象に残るカタカナが小気味好く使われている。会話からの二人の関係性、僕の美結に対する心情。説明させ過ぎてはいない世界観の広がりも申し分ない。一歩間違えると意味不明な小説になりかねないが、そうならないバランスは絶妙で、そこの余白が読者に考える隙を与え、探求欲を満たすものになっている。
 最初、天の川じゃないのかと思ったが、アンドロメダが見えることは後に調べて分かった。

「誕生」
 音と文字の観念的な小説であり、一定のレベルは保っている。ただ、文字や音は作者の以前の作品で登場したテーマであり、新しさはないと感じてしまった。

「小説機械」
 分からない部分とか、曖昧な部分をあえて小説のなかに作る。それが読者の想像をかき立てることになり、疑問の探求欲を満たすことになる。読者は決して、手取り足取り作者に引っ張ってもらいたい訳ではない。ある種の突き放しで、読者がそれぞれ独自に考え、独自の扉を開くことができる。作品の書き方は、かゆいところに手が届くもので、破綻なく隙間が埋められている。だから、テーマや素材とは別な部分において想像することが難しいと感じてしまった。

「彼岸の森」
 異常さのなかから、ある種の正常さを感じ取った。観念だけではなく、死へのプロセスの描写が現実性を生み、そう感じさせたのだと思う。そこには今までの作者の作品にはない生々しさがあった。
 殺人の動機は、殺害直前の行動や感情だけではなく、生立ちなどが深く関係している。しかし、殺人とは唐突であって、動機があるから殺人が行われるものではない。それでも、動機に引きつけられてしまうのは、読者が主人公の意識を取り入れたいからである。取り入れることで主人公を移入したり、嫌悪したりすることができるから読者は取り入れたいと思うとわたしは考えている。それができないと読者は作品を分からないと思ってしまいがちだが、今作ではそれがなかった。

「双眼鏡」
 まだまだ暑いので怪談でもと思いました。単なる怪談では面白くないので、少しひねってみました。

「スカーフのゆれかた」
 なんなのだろう、この意味不明さとは毎回思うことであるが、今回も最後ですごくはぐらかされた感じである。スカーフなら転ばないといった比喩であろうか。スカーフが作品の大きな素材になっていて、中国人の手下がそれを売っていて、高校の友達にそれをもらう流れはわかるが、スカーフなら造作もないといった締めくくりには疑問が残ってしまった。伏線が張られていて、それが回収されないもやもや感だと思う。
 スカーフという比喩が作品に広がりを与え、読者に何かを想像させるなら、それは小説が成功したことになるが、少なくともわたしには想像することができなかった。

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