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本文: 〉#1 見える子 〉 〉「私に気付いた」ということは、自分が幽霊だと自覚していることになると思うのだが、だとしたらどうして幽霊を怖がって「目を伏せる」のだろう。 〉 〉 〉#2 カルーアミルク 〉 〉同性愛の話ではあるけど、よくある恋愛の話を書いただけという印象。それと、多くの部分で自分の心情を語っているだけなので(自己完結してしまっているので)、物語に広がりがないというか、入り込めないような感じになってしまう。あるいは、そういう書き方もアリかもしれないが、この作品ではあまりいい効果が出ているとは思えない。 〉 〉 〉#3 或る町の夕暮れ 〉 〉美しい女性と夕暮れのひと時を過ごすという、自分の願望を書いただけに見える。願望だけを書くというのは、自分の気持ちや表現したいことだけを書いて、読者のことをあまり考えていないということ。小説は、自分だけでなく他者である読者のことも考えて書かないと面白くならないと思う。 〉 〉 〉#4 スイート・マリー 〉 〉わざわざ「ボブディラン」や「カミュ」を入れ込まなくても話は十分成立するし、それらの固有名詞を入れ込むことによる効果や趣もよく伝わってこない。その固有名詞を知らない人にも、それをあえて使う意図や、魅力が伝わるような書き方をすべきではないのか。 〉物語そのものについては、マリーの衝動的な行動にモームが引っ張られていって、なんとなく二人で幸せに暮らしてくという内容であり、特に何かが起こるわけではない。しかし二人のとりとめのない、可愛さすら感じさせる行動に、どこかほっとするような穏やかな雰囲気が漂っているように思える。 〉なので作品の雰囲気は好きだが、固有名詞の使い方がマイナスになる。 〉 〉 〉#5 ヒト、ですから…… 〉 〉母親が、息子である主人公の将来の結婚を考えて主人公が住むための家を買ってしまったので、主人公やその姉(母の娘)が困惑しているという話か。母親の、息子に対する心配や愛情が、家の購入という変な方向に向かってしまったというアイデアは面白いと思う。しかし、母親の行為がいかに変かということを語るだけで終わっており、それ以上の展開がない。なので物語としては中途半端な印象になってしまう。 〉 〉 〉#6 すいかのにょうさんち 〉 〉尿路結石の痛みに耐える話か。 〉「売れ残ったミルフィーユの味」や「宇宙が人知れずに膨らんでいることに近い」は面白い表現だし、言葉のセンスは悪くないと思った。しかし、全体的に言葉の表現にこだわり過ぎていて、何となく詩に寄っているような気がする。 〉自動改札機との会話は、話を飽きさせないためのいいアクセントになっているが、結局、話が同じところをグルグル回っているだけに見えてしまう。 〉 〉 〉#7 江口君のこと 〉 〉小学生の頃の、少し印象に残っていた同級生のことを思い出すという話。 〉前半は、「ぐっと」くるかこないかというのを押しすぎ(あえてそうしているのかもしれないが、私にはくどく感じる)だし、単に相手を茶化して、面白がっているだけに見えてしまう。 〉後半も、「必要以上に舌の上で転がしたりもしない」と言いつつ、すでに前半の「ぐっと」の下りのところで、十分に舌の上で転がしているじゃないかと思ってしまう。結局「ぐっと」を、言いたかっただけの話という感じがする。 〉ただ、読みやすいという点は評価できる。 〉 〉 〉#8 彼方の入道雲はもういない 〉 〉熱さと、田園ののどかさと、機械の轟音による意識の混濁が上手く表現されているし、魅力的だと思う。作品の中では、「だって、わたしはあなただから」という、自我や自己同一性の問題が出てくるが、その問題が追求されることなく、意識の混濁を表現するためにのみ語られているように見える。そのやり方は、意識の混濁を表現する上では効果的だと思うが、欲を言えば、そこで終わらずに、もう一歩先に進んだ何かを表現すべきだったのではないかと思う。 〉 〉 〉#10 積み石のアーチ 〉 〉蜘蛛の、蝶に対する嫉妬から生まれた妄想が、もう一つの別の世界を作っているという話だろうか。蜘蛛の嫉妬が深いほど、別の世界の出来事も醜く残酷なものになってしまうという発想は面白いと思う。しかし、話の構成が少し分かりにくいし、表現が回りくどくて文章が頭に入ってこないという点がマイナスになる。
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