仮掲示板

眠る森のお姫さま

決勝も終わりまして、とりあえず黒田さんが優勝なのは確定ですね。おめでとうございます。

今期は僕にも多くの感想がいただけたことに驚きました。でも素直に嬉しいです。ありがとうございました。
いただいた感想を見て僕にも思うところがありまして、今期の話の見る角度を変えてみたら割と面白かったので、ちょっと書いてみたんですよ。
でも、いただいたものなのに黙ってブログにのっけるのもなんだか後ろ暗いので、まずはここに貼っつけておきます。

フォローになればいいなとは思いますが、内容自体は大して変わってませんので、なんというか、そんな感じです。



























 *

「どけよじじい」
 加奈子は圧し掛かる爺やの亡骸を足で追いやり、ティッシュで股を拭いた。その後も無反応な爺やを見て、加奈子は脈を取った。
「こいつ死にやがった」
 加奈子は爺やに服を着せずに救急車を呼んだ。この哀れな様を一人でも多くの人に見せるためだ。その後、現れた隊員が神妙に爺やを看る姿に胸が痛み、加奈子は「なに見てんだよ」と呟いた。

「加奈子さん手コキしてくださいよ」
 犬が言った。
「いいけど、わたしとヤったら死ぬよ」
「いいから早く! 私のそそり立つモノを! その手で! 鎮めて!」
 加奈子が犬の陰茎を軽く握ると、犬は気持ち良さそうに目を瞑り、ほどなくして射精した。
「加奈子さん最高でした!」
「まじか」
 加奈子はまんざらでもない表情を浮かべた。庭の水道で手を洗うとき、捲った袖からまだ新しい包帯が覗き、犬は夕べのことを思い出した。


 家の中から小さく悲鳴が聞こえ、犬は目を覚ました。見ると、カーテンの隙間から汗だくの加奈子が見える。
 加奈子は尋常ではないほど震え、その瞳には何も映してはいない。床に打ち付けた拳の痛みにも気付いていないように見えた。
「加奈子さん! エサくださいエサ! おれ腹減ってんすよ!」
 犬の叫びも加奈子の耳には届かず、加奈子は暗闇のなか手探りでカッターナイフを拾い上げ、刃で手首を横に何度も切り裂く。飛び散った血飛沫が加奈子の熱と興奮を下げ、痛みは混乱を治める心地良いものだった。


「私ね、催眠術のせいでおかしくなったのかもしんない」
 爺やは術を解かなかったから、と加奈子は付け足した。
 加奈子は時おり白昼夢の中にいるように呆然と立ち尽くすことがあった。そして嗜虐的に笑ったり、歯軋りしたり、泣きながら怒ったりするのだ。
「そっすか」
「やっぱカネだよね、カネ」
 そう言って加奈子は五円玉を天に向け、そこから空を仰ぎ見た。
「何やってんすか?」
「見てんのよ、空を」
「何が見えるんです」
「自由」
 犬は加奈子を真似るように空を仰ぎ、加奈子の見えているものを見つけてやろうと誓った。
 そのとき、道むこうで靖史が手を振った。犬は、靖史はすべてを知った上で真摯に加奈子に接していることを伏せた。
「加奈子さん愛されてますねー。とりあえずヤってあげたら」
「やりまんとか思われたら困るからやだ」
「加奈子さんやりまんじゃないでしょ」
「んー……」
 そして、加奈子が染まった頬を髪で隠し、戸惑いながら手を振り返す様を、犬はおとなしく見ていた。

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