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『夏の動物』

語り手が可愛らしい。
最初と最後の段落がとてもいいので、「キリン」と「男の子」に対する「私」の態度からもっと感情が見えてくるような書き方をしてもらえると、女の子心がもっとはっきり表れて面白いんじゃないだろうかと思いました。

『世界一短い推理小説(千字ver)』

完全な推理が不可能な細部から強引に結論を出す話としては説得力が無さすぎますし、一ページを残してすべてのページが抜けた小説のその一ページからだけでも強引に推理を展開しないではいられない探偵の滑稽さを表した話としては推理の内容に面白味がないですし……。
私なりのあの一行の推理は、犯人はまったくわかりませんでしたが、「本当にひさしぶりに自分の時間が持てるという平日の午後二時に、殺害され、身体をバラバラに解体された主婦の話」という結論に至りました。

『淑女渇望』

「私」と「マーカス」の最後のやりとりの意味がよくわからなくて、ありそうな場面をあべこべに繋いだだけのように感じました。
はじめから内容の一部を隠すつもりで書かないで、たとえば「私」と「マーカス」の関係をまず説明することからはじめて、その関係にとって「パパとママとフィアンセのレスマン」という人たちは何なのか、というふうに書いたほうがこの内容をより発揮できるんじゃないかと思いました。

『追い風』

人生の好不調によって「追い風」か「向かい風」が吹くというアイデアは、こういう形じゃない形で読みたかったなと思います。
行き当たりばったりで書いたものをそのまま出した、と思うのですがどうでしょう。がらくたっぽさが効果的というふうに考えるには、ちょっとがらくたっぽすぎるという気がします。

『ナレーション』

語り手の語りに音楽的な心地良さがあるとか、「語る」とはそもそもどういうことなのかといった緊張感があるとか、語りの内容が面白いとか、そういう特徴をわざとらしくでも見せておかないと、読者に楽をしていると思われるので損です。

『求ム、』

サラリーマン川柳になりそう。

『たけしの観照(3+9=?)』

この二人は覚えてました。
このシリーズは投票とは関係のないところで別個に載らないかなあとだいぶ前から思っています。

『舌鼓』

面白かったです。
これは小説よりもエッセイに近いなと思いました。乗馬に関する情報と、その時々の「僕」が抱いた印象だけが描かれているからだと思いますが、1000字なのだからこれくらいの軽快さでちょうどいいのかなとも思います。

『ひつじ雲』

バランス良くまとまっていていいのですが、たとえばもっとアイスに注目した書き方がされていたらもっと面白くなったような気がします。

『Corruption of the best becomes the worst』

憎しみが憎しみを生むというところが人間らしい一面だと思うのですが、きっと「彼」を殺された「彼女」は「私」に対して憎しみを抱いたりしないんだろうなと思えるところが、この作品の凄味だと思います。
「愛情は永久に続かなくとも、憎しみは絶っておかないときっと永久に続くんだ。」という話としてまとめてしまうのはちょっともったいないなと思いました。

『小あじの南蛮漬け』

崎村さんの『Corruption of the best becomes the worst』の直後に読むといっそう沁みますね。
bear's Sonさんの『舌鼓』をずずっと小説のほうに引っ張ってくるとこの作品になるんだなと思いました。
翻車魚さんの『求ム、』がサラリーマン川柳に変換できるような気がするのと比べて、長月さんのこの作品は短歌に詠まれそうな内容ですが、これはこの形でないといけないような気になります。

『らくだと全ての夢の果て』

砂漠と天の川の関連にもっと説得力のある説明をつけたほうが、ロマンチックな雰囲気が発揮されるんだろうなと思います。

『アイ ウォント ユー』

「彼」を調理して食べちゃうほうが「全部がどうしても欲しい」という「私」の願望が叶えられるような気がしました。
この流れのまま行くなら、「彼」の顔だけにこだわっている描写をしておいて、頭だけ切り離して持ち歩く、とか。
「異性として」ということなら「彼」の性器を、とか。
このうちのどれにしたとしても、これは出発点でその後の展開で勝負、ということになるんだろうと思います。

『擬装☆少女 千字一時物語24』

一枚の写真があって、鑑賞者がその写真に自由に題をつけ、それによって物語を発生させる、という時の「写真」にこの作品が当てはまるなと思いました。

『右手と左手の会話(ソナタ形式)』

何かの曲を演奏中の右手と左手の会話、ということなんでしょうか。
私は会話を書くのがおそろしく下手なので、こんなことは恐くてできそうにありません。

『糞の礼』

あ、「うんこの話」。
でも、これは性交に関する話なんだと思いました。

『海退』

bear's Sonさんの『舌鼓』の印象の描写をどんどん鋭くしていくと、この作品のようになるんだと思います。

『仮面少女』

すごい。一分の隙もなく閉じている。

『車内の吐息』

ほのぼの。
短歌になりそうですが、そうすると「彼女」の可愛らしさやキムタクっぽい「男」の印象はこんなふうには表れないかもしれません。
のびのび書くことは偉大だなと思い知らされました。

『オレンジ』

「少年野球リーグ」とか「オレンジ」とか、アメリカっぽい素材が並んでいるので、いっそ舞台をアメリカにしたほうが内容が引き立つんじゃないかと思いました。
というか、そういうのが好みなんです。

『常連のお客様』

「えーー?!ね、猫?!」って言っちゃう語り手が愛らしいです。

『祖母の入院』

「私」と祖母の会話がいいですね。
弱々しいおばあちゃんが出て来ると条件反射的に泣けてきます。

『さあ、みんなで!』

荒唐無稽な内容を野暮な文章で描くというのがこれまでの作品だったと思うのですが、荒唐無稽な内容はそのままで、文章を変えてきましたね。ハンニャさんにはこの反対のことに挑戦して欲しいのですが、こっちが正道で、現に面白いので降参です。
ハンニャさんの作品を面白いと思えないとセンスがないってことになるんじゃないかと、いつも気合を入れてから読んでいます。
ハンニャさんが書く内容を思うと、私は本当に楽をしているなあと思います。

『シルク』

モンタージュ。
るるるぶ☆どっぐちゃんさんがこういう事をしてくださっているので、安心して違う方向へ進むことができます。



以下おまけ。


25

 モナリザのモデルが確定した日。ゲルニカのCG爆撃。セザンヌのCG爆撃。
「次のプロジェクトもこのような形で進めます」
 映し出される像。いやあ、やめてえ! 許してえ! 痛い! シルクハットの男の股間が銃弾に打ち抜かれている。悲鳴。膝つくシルクハット。血飛沫。ここは俺に任せろ、なあにそう簡単に死ぬつもりはないさ。血飛沫。おにいちゃん……。血飛沫。
「マーケティングに沿って需要を全て詰め込みました。勿論、既にメディア展開も考えてあります。何か意見のある方は?」
 遠くから聞こえる。トゥエンティ・センチュリー・ガールズ・ストライプスのライブ音が。晴れたる青空、漂う雲よ。
 がらんどうの青い鳥。フラー理論。タイムマシン。
「またこんなの書かされるのか。うんざりだな」
 企画書を手に男は呟く。
「ならお前は何が書きたいんだ? 失われた時を求めてか? 百年の孤独か? 田園に死すか?」
「さあな」
「全て需要は詰め込みました。既に外注のアニメ業者に委託の打診をしてあります」
 股間に血糊をつけた男がタキシードとシルクハットで舞台に立っている。カラーボールでジャグリング。観客からは万雷の拍手。
「何が書きたいんだ?」
「例えば」
 ひまわり。燃えあがる向日葵とそれを抱いて燃えあがる少年。ラプラスの悪魔。その前で絵筆を持つゴッホ。
 良い天気だね。虹へ。少女達は爆撃機で虹へ。痛いなあ脚どけてよ! この腕邪魔よ! 操作出来ない! ねえトイレは? もうこのドレス飽きちゃった! 虹へ。爆撃機の中は軽快にコンピュータ音楽。ハッチを開いてパンツを脱いで一人の少女が地上へ放尿。The rine in Spine stais minely in the pline。スペイン荒野にただ雨は降り注ぐ。
 カタカタカタカタ映写機が回っている。シルクスクリーンに少女搭載型爆撃機。万雷の拍手。ただ雨がスペインの荒野に。荒野。ゴーギャンが歩いている。絵の具を沢山抱えて。女の子の裸を沢山率いて。さあアルルまで。ゴーギャンがゴッホの耳を拾う。
「これが六億ポリゴンで再現した、ゴッホの右耳です」
 巨大スクリーンに右耳ゴッホ。拍手万雷。

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