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14 署寒

>「短編」は、1000字以内の創作小説を毎月募集し、読者投票により優秀作品を選出するサイトです。
 という扉の言葉を一応引用しておくが、これはここに論文を投稿するということになんら反対する意図のものではない。
 ただ、小説の読み方と論文の読み方には違いがあって、サイト『短編』に小説を読みに来た人が、これを読もうとすると、最初の方は小説の読み方で読んでしまう。するとなんだか疲れるのである。
 問題はこの作品の題名であろう。この題に込められた意図いかんによって、この作品の小説性が決まる。
 「署」も「寒」も漢語であるが、めんどくさくなってきたので、文字から始まった言語はおそらくないのではないだろうかという私見だけここに述べておきたい。

15 ガラスの瞳

>「ただ、昔から家族を自分が持ったときは連れて行くと決めていたんだ」
 という彼の台詞の魅力に、彼自身の魅力が付いていっていない。だから
>ただ、許されるのであれば、私はまだ共に彼といたい。
 という話者の言葉に説得力がない。主人公の正体をもう少し早く明らかにし、そして散発的な印象をもっと彼一人に絞るべきであろう。

16 花の卵

 面白い。なんでもない所から始まったが、期待させる文章。母親と先生が見せる影が大変興味深い。
 残念なのは「面白い」だけに終始してしまっていることである。例えば私はこの作品を今期の優秀作として投票する気にはなれない。悪く言えばライトノベル的なのだ。

17 彼と私の話法

 とても愛らしい。よく書けている。彼を死体かあるいは何か肉体的重傷を負ったのかと期待させる緊迫感はなかなかのものだ。そこからお互いの愛情を描写していくのだが、そこの所の落差が読者をより強く作品に引き込む。

18 美術館でのすごし方

 最後の一文が今期中もっとも効いている作品であろう。
 私の好みも多分に含まれるが、彼女の描写がとても美しい。
 淡々とした語りにもかかわらず主人公の心情が肉迫してくる。

19 水晶振動子

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 この場で草(w〔(笑)の略〕の多用)を使うことを全く予想していなかった。素晴らしい。炸裂エキセントリック賞を進呈する。

20 ドライブ

 なかなかの怪談の語り口調だがちょっと稲川淳二過ぎはしまいか。ヒマワリと正体がわかったところで、そのヒマワリまでが怖く思えるのだ。

21 カメレオン

 なかなかのアイロニー。文学青年の自意識の膨張と外に向かう傾倒的なエネルギー、そしてその実態はひとにぎりの皮に過ぎないという。ただ、「全て分かって作る。そんな創作はナンセンスです」というゲルハルト・リヒターの言葉だけこっそり伝えておこう。

22 オチのない話が書きたい

 オチはなくても山がある。意味はあんまりない。というかわからない。一体何にむせているのか。「片付けた」のが自分の文章だとすると「外」は読者あるいは評者の言葉だろうか。「耳を傾けている」対象が自分の朗読だとすると、自分の存在に付いて何か尋ねているのだろうか。
 疑問符ばかりを残していてはやはり後味が良くない。バランスが問題だ。

23 ナガレ

 作品が作者の内部で帰結してしまっていて、読者の入る隙がない。表現は巧みなのだが。

24 こわい話

 なかなか説得力のあるこわい話であった。作者の成熟性が感じられる。

25 ぷらなリズム

 タイトルに期待感を削ぎ落とされたが、これは面白い。スレを立てる現実味と、シュレッダーに怯える非現実的なおかしみに、思わず膝を打ったかと思った。

26 お別れのキスのことばかり考えていた

 良作。映画を見ているような展開で、とてもすっきりと読めた。描かれている感情が非常に現実的なのに、妙にメルヘンチックで、一定の画面の中で明滅するよう。いい作品だ。

27 にらめっこ開始

 面白い。栃木県のちびっ子の台詞が最高。ラストの諸星の動揺の描写も凄まじいパンチ力だ。


 以上で第59期全作品批評を終えたいと思う。総評としては、後半に行くほど良い作品が多いのが目立った。全体として収穫の多い月であったように思う。と言っても前述のとおり全作品まともに読んだことなど数えるほどしかないので、あまり当てにしないで頂きたい。疲れたが、楽しかった。『短編』のレベルアップに私の批評が役立てば幸いである。

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