仮掲示板

内容制限はないので第56期感想を

毎回、どの作品に投票するかを迷います。
しかし、迷い方は発表された作品と私の気分によって毎回違います。
今期は、六票くらい欲しい迷い方をしています。この作品も評価したいと思うものを含めれば、優に十を超えるでしょう。

そんなことがこもっていないだろう感想を、以下に報告します。

1.中間色
 題名と内容の一致が良い。理想と現実の狭間にいる主人公、一様でない街並み、良いことはないが嫌なことばかりでもない毎日、中途半端なターコイズブルーが中途半端にしか感じられずにパールに遮られる夢。ではあるが、際立っていないように見える。作品そのものも中間色でできているのだろうかと思った。
 最初に読んだときに「時を待つかのようにこの職に就いた」の部分を読み違えてしまった。販売員になってそこで時を待つのであるが、時を待った結果販売員になったと読み違えてしまったのである。「時節を待つかのように」としても同じだろうか。

2.海辺の食堂
 食堂は繁盛してしまったが、踊りにはどんな反応があったのだろうか、気になる。そう書いてあるからだけでなく、それ以上に何となく、得体の知れない迫力があるだけに、気になるのである。

3.美が果てる
 主人公が罪悪感を持っていないところが良い。もし僅かでもあったら、この作品は駄作に堕ちたと思う。もう少し言えば、「先生が悪人な訳ない」と言っておきながら「先生はともかく、私に非はありませんでしょう」としてしまったところ、先生以上に自分には非がないと言いたいのではあるが、先生も非がないと言うような表現にできればもっと良かったと思う。
 また、最後の落ちもベタで良いと思う。

4.アンチテーゼ
 ごめんなさい。これ、事故か何かで最初の一文しかなくなっているものと思ってしまいました。
 アンチテーゼ、対立する理論。何に対して?

5.独占欲とゲンキンさ
 ともすれば文の途中で改行してさらに一行空けているのだが、この作品ではそれが強調の手法となっていて、強調したい言葉とそのリズムが適正にできていると思う。
 足りないとは思わないし、余計なものがあるとも思わない。ただ、「短気」よりも「狭量」あたりの方が良いのではないかと思うくらいである。

6.境界線
 思考遊戯はどこまで深く立ち入れるかが勝負だと私は思っていた。その点でも本作はかなり良いと思うのだが、さらに感心したのは、引き際の良さである。物語としても思考遊戯としてもきれいにまとめられていると、私は思った。

7.ドーソン氏の血脈
 よくぞ三作も統一された雰囲気ものを作れるものだと思うのだが、今回は救いのない話になっている。妄想も二重構造になっている。
 私は、悪の内容を書くことに本シリーズの意義があると思っているので、ドーソン氏を支配していた「悪の妄想」が何であるのかわからなかったことが残念である。

8.suddenly I
 最初の段落の「謎の電話」が何であるのか一回で読めなかったのは恥ずかしい限り。「もし僕が〜全くのお門違いだ」の表現は、自分に対してお門違いだと言うことで非を認めるようでしかし判断を投げているような、面白い表現だと思う。
 逆に、詰め込まれすぎて私にはついていけない表現もまれに見受けられる。今回は「本来は何百人もの弔問客が訪れる筈の義父の突然の逝去」の部分で、それだけ影響力の大きな人物であることはわかるのだが、その逝去と今後の経営施策を並列にしてそのふたつに身内が動揺していたとしたのはどうかと思った。今後の経営施策は逝去によって引き起こされることであるし、並列にするとしても前者の比重が大きすぎるように思えたからである。

9.筒井筒
 突飛なできごと、特異な手法、それらを必要ともせずに読ませる作品を描ける実力は、すごい。

10.夢を追う少年
 風景、心情ともに描写ができていて、物語としてきちんとできた作品だと思う。最後の締め方も良いと思う。
 ただ、「もっと、自由に空を飛び、星に手を伸ばしてみたい」の一文は、星に手を伸ばすことが目的であって空を飛ぶことはその手段に過ぎないので、「自由に空を飛び」はない方が良いのではないかと思った。

11.休日雑景。
 気障なセリフに流暢に答えたところが、彼女がどんな気持ちでそこにいるのだろうかと想像させてくれる。何を得るために主人公のところに来たのだろうか。漠然とした、靄のようにまとわりつく何かから救って欲しいのだろうか。私はそれ以上追求することはできなかったが、作品に解答が用意される必要はない。何かを思わせてくれる作品が、良い作品なのだろうと思う。
 「交替の合図」は聞かない表現だと思った。覚えておこうかしら。

12.俺の彼女
 わかる人の感想を聞いてみたい。
 それを言えば足がつきそうなので、ドラマな出会いは物語の語り以外では語られていないはずなのだが、他の人にはその部分を除いて自慢していたのだろうか。それでは聞かされていた側は物足りなく思うような気がする。

13.ジャ、ジャッジャッジャッジャ、ボンボンボンボン
 台詞がひとつもないのに悪魔の存在感があるのは、もしかすると最後の口笛はそうかもしれないのだが、かなりのものだと思う。悪魔の悪者加減も残虐すぎるところまで至っておらず、この物語はいろいろな面で均整が取れていると思う。それでいて、えっ、と思わせる展開をしてくれるのだから、良い。

14.ねこにゴハン
 一行目が願望なので、それ以降のすべては想像のはずである。しかし、それがこの精緻さである。それが想いの深さで、そういうものを表現するのが好きな作家さんだなと思った。また、言葉遣い、漢字の使い方、改行、すべてが物語の雰囲気を形成している。
 欲を言えば、恐らくは重要さの度合いを下げるためのことなのだろうが、括弧を使った表現は小説らしさを損ねてしまいそうなのでしないでもらいたかった。

15.わたしとWATASHI
 評ではなく、私が読んだときにしたことを以下に。
 最初の一行だけを読んだときに「ライフライン」とはそういう用途で使う言葉なのかと思ったのだが、最後まで読むとそれほどまでに大事なことであることを表していることがわかった。
 「肩の力を抜いて」と突然に言われたような気がしたが、一行目に「まわりからなんと言われようが私は私」とあることがそれだった。
 それしきのことで目頭が熱くなるのかと思ったが、そういうことに感動することもある年頃だと気がついた。
 私が気づくのが遅かっただけで、きちんと気持ちが描き込まれた作品なのである。
 ただ、手巻き寿司にワインの取り合わせは、今でもわからない。

16.月を目指す
 相反することであることを表現するのに、「積は限りなくゼロに近い」とするのは上手いと思った。是非覚えておきたい。逆に、最後の「これは勝手な実感なのだが」は、何が理由でそれが実感になるのかがわからないので、良くない表現ではないかと思う。
 月を目指すことについて書き加える必要はないと思うが、それがどういう想いから来ているのかを見せるために、過去の思い出も現在のことももう少し書いて欲しかったように思う。

17.擬装☆少女 千字一時物語11
 何が描きたいのか、と思う作品を見ることが、ときどきある。しかし、これは私が鈍いからという要因もあるのだが、他の作品と並べられて初めて自分の作品がそれであることがわかることがある。また、それになってしまった。

18.ははは
 「お母さん」と「母」の使い分けで思い出と現在を区別しているのは良い。そして可能な限り「ははは」にしている。努力しているけど、足したくなるのが読者の性。「普通逆だね」の前に、「ははは気づいてなかったんだ」。
 東大を目指す動機がこれだという純粋さが、良い。そうではあるが、実は今でも志望校が東大であるかは不明。自嘲的に笑うので、夢破れているのかもしれない。
 ところで、お米2kg、牛乳5本、クッキー5個とは、かなり重い買い物だ。

19.姉の話
 姉が自殺した場面で終わらせたのは、何故なのだろうか。自殺した理由は語られた。自殺した方法も語られた。しかし、それだけなのだろうか。
 語彙が少ない私が、教えてもらいたいこと。それは「ぼくら」と「ぼくたち」のそれぞれの使い方と、同じ物語に両方を用いる使い分け方。誰か、教えてください。

20.青いペンキじゃなかった
 言葉に思い入れのある作家さんだと、今回は余計にそう思った。この物語がその象徴に見えて、きっとそんなイメージで物語を作っているのだと、私は勝手に思う。新聞から言葉を拾うのが作者さんで、感性か何かから言葉が飛び出てくるナオ太が憧れか何かの意識しているもの。
 頓狂なことでも何かを乗せた表現であって、だから面白さがあるのだろうと思う。

21.そなたと朝寝がしてみたい
 作品の感想は、降参。
 「ビクビク震えながら「しばらくは花のふぶくにまかせけり」と呟いているところが実に怪しい」という芝居がかった表現が、良いかなと思った。

22.回送
 これだけ読者を惹きつける力を、何と呼べば良いのだろうか。なぜわからないのかと言うと、なぜ惹きつけられたのかがわからないからであり、さてではどこが良かったのかを指し示すことができないからである。しかし確かに私はこれに惹きつけられたのであり、回送列車に吸い寄せられたのである。

23.二つの一周忌(1000文字版)
 言葉を大事にする人の在り方が、ここにある。舞台装置でしかないふたつの一周忌の記述は最小限に抑えられ、言葉をどのように用いるかということが、叩きつけるようではなく、滲ませるように表現されている。
 もう少し言えば、普遍であろう気遣いと、時と共に変わりゆくだろうメールという手段が混在していて、決して古くさい、説教くさい話になっておらず、現在における最善があるように思える。
 余計なことを言えば、これが僕の欲しい感性。

24.よいとこさ、よいとこさ
 描写が適切で、場面を見せるのが上手い作家さんだと思った。どんな言葉でどれだけの字数を割いて場面を見せて、そして主題を表現するかということが、字数の限られた物語では必要になると私は思うのだが、それが上手い。
 その完成度の高さは、本当に創作なのかと疑いたくなるほどだ。

25.千年王女
 難しい問題を、隙なく扱っているものと思う。ではあるが、物語にある文字で世界が完結しているように読むべきであろうが、これだけ安寧を維持することができれば王国は繁栄し拡大しそうだと、私は思ってしまった。それをすれば、物語は壊れてしまう。
 これも思い違いなのだろうが、「賢者は頷き、先導者たる女に解を与えた」は「先導者たる女王」ではないだろうかとも思った。だがしかし、王である以前に一人の人であることを表しているのかもしれない。重厚な主題を扱うのに重厚な文体を用いる手法は、是であろう。

26.オー!パイナップル
 面白い雰囲気を持っている。それは物語の流れであり、また「奥さん」のような言葉の使い方と第二段のような小ネタの使い方であると思う。それが、死を扱っているのにもかかわらず、暗くならず、そうかと言ってふざけてはいなくて、トムが描いた絵のような突き抜けるような真っ青な空とそこに映える真っ白な雲のような色合いになっていて、気持ちの良い作品になっていると思う。

27.サンダーマイン
 これも作品の感想は、降参。
 ただ、石像を直す作業は、破壊の描写の多い作家さんにしては珍しいと思った。あれ? 銅像だったかな。

28.わたしはわたし
 物語を書く行為についての作品が二作続いているところ、最近テーマにしているのかもしれない。『森に消える』のような、『ほらふき男爵の憂鬱』のような、そんな気もした。
 最後のオチが上手い。そしてそこに至らせるまでの流れの作り方が、上手いと思う。

29.放浪
 転生の話も面白そうだなと思う。もう少し何かが欲しいような気もするが、少なくとも不足はないと思う。

30.だしません
 最後の括弧書きで、あ、と思った。UGが彼らにとって世界のすべてならば「閉じ込められている」という言葉は当たらない。比較対照がなければ「小人」とすることも当たらない。しかし交換機は彼ら以外の存在を知っている。そんな交換機ともともと彼を作っただろう小人との関係性が、面白いと思う。

あまり読み込んでいないうちにそろそろ来期の準備をしなければならないことになってしまった、怠惰な黒田皐月でした。

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