24 継承者
義父の職業である「掃除屋」の目的とは、つまり体制側の正義の行使(体制維持のための暴力)である。まるで現代の、世襲議員(体制維持)を皮肉る内容にも取れるし、そう考えると納得のいく内容だと思うが。
25 水場で書かれた物語
「一九六五年」頃の日本文学の状況にはあまり明るくないので、おそらくそんな感じだったのかなと想像するしかないのだが、ずいぶんと気ままな様子が伺える。
「中に入りたいのもまた浅丘ルリ子ではなく母なのである」という下りに、なつかしい心理学を思い出す。
どこまでもなつかしさを追及するものなのか、それとも現代との対比なのか……判断が難しい。
26 腹の中
鬱陶しいだけの友人なのに、離れられないのはなぜだろう。それは友人の中に、自分を見ているからかもしれない。性器、売春婦、汚物……。否定しようにも否定できない。自分を失うようで。
27 Pluto
別れとは、何かを一つ失うことなのかもしれない。冥王星が名前を失ったように――――別れ際、私たちには記憶の鍵だけが手渡される。サヨナラ。たまに開いては眺めるが、いずれその鍵もただの記念物と化していく。失ったものが何だったのか、ついに分からないまま。
別れとは、いったい何でしょう。
28 雪山の夢
「まだ手元に残って居た物」に、誰しも思いをめぐらすに違いない。そして一番大切なものが残っているかどうかを確認する。まだある。しかし本当に大切なものは、それを失ってからでないと“本当の価値”を知ることが出来ないのかもしれない。でもやっぱり、どうしても失いたくない。“本当の価値”なんて、どうでもいい。
29 ご老人、
元パルチザン(反政府ゲリラ)と思われる老人。ぬるま湯のような現代の世の中に、一人苛立っているようすが哀愁を誘うが、その哀愁を踏みにじるように――銃を炸裂させる。
その突き抜けた感じが粋だと思った。
30 天才嫌い
「天才」とは、回りがそう思うかどうか、必要とされるかどうかであるということが、オチでちゃんと示されていると思う。
世間には、「天才」と呼ばれている人はごまんとおり、実際には「天才」の大安売りをやっているだけという気もする。
人はただ、自分に出来そうもないことをやってのける人のことを、「天才」と呼んでいるに過ぎない、と私は思う。