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#1 さよならの先

物事を記号化するという手法に頼り過ぎている気がする。ここでいう「記号化」とは、腕や脚などをまるで記号のように扱って話を作っているという意味なのだが、この作品では、記号化すること以上の工夫があまり見られないということ。
内容は、痛々しく絶望的な状況が続いたあとに、なんとなく自由になって終わるというもので、取ってつけたような「救い」らしきものを最後に持ってきただけという感じがしてしまう。
良い点は、話がシンプルにできているということ。なので、読む人によってはより深く読めたりすることもあるのかもしれない。


#2 見えない見ない。

「灰色」の日々を送る主人公が、車椅子の彼女に出会い、彼女と交流していくうちに、「世界が少しずつ着色」されていく。そしてある日、彼女も本当は無色だったことに気づくが、彼女はその翌日に死んでしまい、主人公は彼女を救えなかったことを後悔する。
彼女も本当は無色だったという話の展開はいいと思うが、やはり全体的に見ると、よくあるような書き方だと思う。
たしかに、つまらない毎日に心が沈むという経験は誰にでもあると思うし、普遍的なテーマだと言える。だからそのことを取り上げるのはいいとしても、なぜそう感じるのかという理由や、そこから逃れるための葛藤のようなものを書かないと、ただのよくある話にしかならないような気がする。


#3 一揆

現代の農民が一揆を起こそうとする、というアイデアは面白いと思うし、途中までは、最後にどうなるんだろうという期待が膨らむが、「武装蜂起だ」以降の内容がなんだかよく分からないので消化不良になってしまう。最後のほうは、ちゃんと書いたほうがいい。


#4 神輿とまわし

自分と相手が入れ替わったり、物事がループしながら変化するといった、意識の混乱のようなものを表現したいのは分かるし、面白いアイデアだと思う。しかし、文章がとても読みにくくなっているので、それが大きなマイナス。
意識の混乱を表現するのだから文章も混乱させるというやり方もあるのかもしれないが、もっと工夫の余地はあると思う。
喩えて言えば、魚は採れたてが美味いからといって、何も調理していない(工夫していない)魚をそのまま食え、というのは無理があるということ。


#5 短編小説家として有り続けるために

短編小説家である主人公がいつも利用しているネタ元が、実は親戚の死体だったという話。面白いアイデアだと思うが、ストーリの展開やオチはありがちだと思う。そのこともあるせいか、主人公の狂気がよく表現できていない気がする。


#6 チョコレエトムウス

ある女性とある男性が出会う前の、それぞれの話ということだろうか。「チョコレートムースが食べたい」以降の話の展開が分かりにくいというか、ここに出てくる「彼女」や「女」や「彼」というのは、お互いどんな関係なのかが分かりづらい。最後まで読めば、その関係性がなんとか分かるのだけど、あまり親切な書き方ではないなと思う。
内容については、そこまで「空虚」な人生を送っている感じはしなかった。空虚というよりも「何かが足りない」という程度ではないだろうか。


#7 スイッチ

(予選の感想と同じです)
意味の分からないスイッチというアイデアは面白いと思う。主人公である青年は、そのスイッチが何なのか確認することは出来ないのだが、そのことがより想像を掻き立てる効果につながっている。でも結局は、青年のストレス解消に役立っているという平凡な話に収束されてしまい、そこが惜しいなという気がする。平凡な終わり方をするにしても、さらに想像を掻き立てるような書き方ができたのではないだろうか。


#8 アプローチ

(予選の感想と同じです)
最後まで読むと、ああなるほどと思うのだけど、前半は、何の話をしているのかよく分からない。そういう書き方もアリかもしれないが、少しもったいないというか、工夫が必要な気がする。
内容については、トイレの悪臭という、普段あまり考えたくないようなものを題材にしているのが面白い。トイレの悪臭はネガティブなものだけれど、そのことをめぐって繰り広げられる行為(掃除や、それを見守るまなざし)には、むしろ爽やかさがある。そして憧れや恋に対する無条件な肯定感がいい。


#9 阿部守夫の大冒険

完全にブログ記事。小説とは言えないと思う。
それから、書きたい内容は大体理解できるが、文章が乱雑すぎる。この作品が小説かどうかということ以前に、他人に読ませるものなのだから、もう少ししっかりとした文章を書くべきだ。


#11 ビゼーの交響曲

(予選の感想と同じです)
「ちょっとだけちがう世界を演じてみる」という行為は、小説を書く行為に似てるなと思う。小説を書いているときも、登場人物を通して何かを演じている気分になることがよくあるし、いくらその世界に浸っていても、時間がくれば現実に引き戻されてしまう。なかには、どっぷりとフィクションに浸って戻れなくなる人もいるかもしれないが、それでもどこかで現実と折り合いをつけなければならなくなる。
そういうことを考えていると、この作品は、奇妙な即興劇について書いているというより、小説について書いているんじゃないかという気がしてしまう。
現実や、フィクションや、演じることについて、いろいろと考えさせられる作品。


#12 痺れ

割としっかりした文章で書かれているし、「無感覚の水面に感覚の波紋が広がっていく」という表現はキレイだと思った。
しかし、ある決まった手順や構文に従って書いた習作という感じがしてしまう。
作家性があまり見えてこない作品。

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