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#1 遠い過去に存在したはずの街について
前回と同じで、絶望感とそれを癒す物語のように思える。
初めは、虚無的な考えに囚われすぎた「物書き」と「削除屋」を皮肉るような内容になっている。
そして中盤では、「わたし」が書いた「傑作」の作者と協力者を、「物書き」と「削除屋」にしてしまったあたりから、物語が急展開するように思えたが、結局「わたし」もまた、虚無的な考えを超えることがないまま物語が終わる。
絶望は絶望のままでもいいのだけど、少し角度を変えてみた場合の絶望とか、色の違う絶望とか、同じ絶望でも、物語の始めと終わりに何か変化が欲しい。
#2 夫から妻へ
初めは「セックス」という言葉だったのが、中盤からなんとなく「性交」に変わっている。「セックス」というと少し非日常的な感じがするが、「性交」というと日々の営みという感じかしてしまう。この物語では、そういう非日常的なものと日常が混在しているような風景を描きたかったのかなと思った。
それから最後の方の「百万円、もらったのかい」は、何のことなのかよく分からない。
#3 この見えないはヒルサガリ
これは、ほぼ詩だと思う。一応、話の展開のようなものはあるけど、ひたすら心象風景を描いているだけのように見える。
それから、言葉の使い方が荒っぽいというか、言葉を丸投げしたような箇所が気になる。「怯えたようにただ草臥れて」や「倒錯するアカルサ」など、独特な魅力があると言えばそうなのかもしれないが、本当に考え抜いた上での言葉なのか疑問。
#4 授業
生活が便利になりすぎて非常事態に対処できないという、よくあるSFの設定。その設定自体が悪いわけではないけど、よくある設定を表面的になぞっただけで、ひねりや工夫があまりない気がする。
この題材で書くのであれば、例えば、便利に慣れきってしまったことに対する不安の心理みたいなものをもっと掘り下げるとか、物語の奥行を深めるような書き方もできるのではないか。
しかし、便利な「電動の車椅子」を、死刑道具である「電気椅子」と呼ぶのは、ちょっとした皮肉が含まれているようで面白いと思う。
#5 観光客らしき青年
とりたてて何かあるわけではない町に訪れた外国人青年の、ケガをした足を洗ってやるという話。主人公の「わたし」は「三十数年前の体験」と言っているので、ある程度歳のいった中年女性ということになるか。
しかし、語り方があまり女性っぽくないので、中盤の「スカートの裾をたくし上げ」までは、「わたし」が男なのか女なのかわかりにくい。それから、主語が省略されている文章が多いので、誰のことを言っているのか少し混乱してしまう。
そういった理由から、自分は最初、「青年」を女性、そして主人公である「わたし」を中年男性だと誤読(脳内改変)してしまった。でもそう読むと変な魅力があって、なぜ女性なのに「青年」と呼ぶのかということが気になったし、頭のネジが二、三本外れたような感覚になった。
そういう意味では楽しめたけど。
#6 後ろ姿の女と桜
(予選の感想と同じ内容です)
言葉をただなぞるって、面白いなあと思った。会話の中で言葉をなぞるのは、相手の言葉を確認する意味があるのだと思うが、何回も同じ言葉をなぞると、その意味が何だったのか分からなくなるというか、意味なんて初めからなかったのではないかという感覚になる。それは空虚なことだけれど、「意味」の重みから解放されたような心地よさもある。
作品自体については、前半が退屈。途中で飽きられてしまうかもしれない。
#7 違う世界
何人もの男にフラれる女がいて、その男に出会う場所はいつも秋葉原だったという話。だけど、主人公の女が、なぜ秋葉原にこだわるのかがよくわからないので、最後まで読んでも腑に落ちない感じがしてしまう。あと300文字以上余裕があるのだから、そのことを書いたらどうだろう。
#8 鈍色のナイフ
中盤以降がよく分からない。少女と性的な行為をしているのは分かるのだけど、それが何を意味しているのかや、父親を殺すという序盤の話との繋がりがよく分からない。なので、全体的によく分からない話になっている。
それから、「体液をはらんだ傷口」は女性器のことなのだろうか? そうだとしたら、この節の表現が回りくど過ぎる気がするし、何のことなのか分かりにくい。
#9 つながり
(予選の感想と同じ内容です)
まいった・・・。
ある存在が、いらない物を家に持ってくるというところや、ある日その存在が人間を連れてくるという展開が、自分の書いた今回の作品(『すてきな三毛猫』)と同じでちょっと(かなり)ビックリした。最後のほうが少し違うぐらいで、話の展開はほぼ同じだ。もちろん、お互いに意図したわけではなく、奇妙な偶然でそうなっただけなのだが・・・。
そういうわけで、似たものを書いてしまった自分としては、この作品に対する評価が難しい。でも、問題になっている「類似した話の展開」にとらわれずに読むと、この話は友情を描いたものであり、色々なことがあっても何となく続いていく友情の温かさみたいなものが表現されているんじゃないかと思う。そして最後は、話の舞台になっている部屋から誰もいなくなって思い出だけが残るという、余韻を残すようないい終わり方だなと思う。
ただし、主人公が少し優しすぎるというか、状況に振り回され過ぎかなという気もする。もう少し抵抗があったほうが、物語にメリハリが出るかもしれない。
#11 フォーレ「エレジー」
(予選の感想と同じ内容です)
タイトルを見て、またウンチクを披露する話なのかと思ったが、読んでみるとそういうわけでもなかった。割と自然な流れの中で「フォーレ「エレジー」」が出てきたなあと。それから話も上手くまとめられていて、読みやすかった。
前半は主人公と河村さんとの男同士の話で、後半はその男同士の空間に「若い女の子」が入ってきてその空間にちょっとした緊張感や高揚感を与える。しかし最後に「キャバクラ的なノリ」になってしまい夢から覚めたような感じで終わる。
話の中で特に何かが起こるわけではないが、それがかえって良くて、中年のオジサンの落ち着いた心境が上手く表現されていると思う。