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「新規ドキュメント」
 マスターベーション後に罪悪感が漂う。というような読後感を覚えます。他人から見たら何でもないような出来事をドキュメントとして保存する。日記に書いたのが二ヶ月前、でも、その時間を書いてはいない。「覚えてる」ということは現在ではなく、過去を書いている。
 これまでの三作品も含めて、強い印象なりエッセンスなりが作者の書く原動力のような気がしている。だから、作品全体の構成は読み取れず、マスターベーションのような自己満足を覚えたのだ。もう少し読者に歩み寄れればいいのにとは思うが、それは作者が決めることである。

「欲望のない世界」
 こういった思考は一歩間違うと全てが狂い出す。
 少なくとも私は苦しいと思って呼吸をするということはない。意識とは関係なく呼吸は行われている。
 石が動きたいと思っていないとどうして作者は断定できるのか。人間の思考はたかだか100年であるが、石は1万年、あるいはそれ以上、時間軸がまったく違うのである。
 ロボットの行動が人に感動を与えることはある。AIBOなどは単なるプログラミングにより行動しているだけであるが、それを感情と汲み取る飼い主はいる。人間も同じで感情と関係なくとった行動が人に感動を与えることもある。
 砂糖には意思があるのか、という問いをする。脳は糖をエネルギーとする。ということは(馬鹿げているのは承知で)糖の意思が脳に何らかの影響を及ぼすことだってある。
 タンパク質、脂質、炭水化物といった物質が人間を形成している。だとするとそれらに欲望があったっていいではないのか。人間の欲望はそれらをもとに作られているのは事実なのであるから。
 私には受け取れる部分が少なかった。

「骸骨兄弟」
 出だしはおもしろかった。こういう馬鹿げた話はいい。ただ、ラストまでそのおもしろさが続かなかった印象はある。次回作を楽しみにする。

「雨の又三郎」▲
 面白かった。が、それ以上をこの作者には期待しているので、辛口の評価とすることを許してください。

「カシスオレンジ」
 初恋は○○の味。キスは○○の味。といったニュアンスに読む。奇しくも「折り返し地点」と扱う題材が似ていたので両方の評価を書く。
 どちらも不倫、もしくはそれに準ずる話だと思うのだが、「折り返し地点」には二人の背景が読み取れる。また、場所の想像ができる余白もある。作品としての構成はしっかりとしているし、そこに人間も感じ取れる。扱う題材がありきたりなのが票にまで結びつかない原因ではないのか。以前の作品を読み返して、題材に共通性を見て、そんなことを考えた。
 対して「カシスオレンジ」にはそれがなく、それが読みにくさを助長しているようである。俺とあのひとの関係性が今ひとつ見えてこないのだ。また、何となくどこかで読んだ印象を持つ。飲み物をタイトルにしてしまうのも芸がない。従って両者では「折り返し地点」に軍配が上がる。
「折り返し地点」▲

「結石」
 あーーーぁ。

「明恵は紺碧の空の彼方へ」
 銀座シリーズのあとの、政治シリーズ。私にはどうしても、小説とは思えない。それにこだわるのは、説明に「創作小説を毎月募集」とあるからです。

「帰る場所」●
 書き手が入れ替わったような感動を覚えた。発想がすごいとか、そういったことはないが、人間を書くというようなことの基本のよう。方程式に沿ったハリウッド映画的といった方が正しいのか。いや、細かいことはいい。素直に素晴らしいと言おう。

「雨が降っていたから」▲
 オモシロイ作品である。変な世界に入っていくというのは設定として常套だと思うから、目新しさはあまり感じられない。どうして毎回コーヒーが出てくるのであろうとも思う。でも、オモシロイ作品である。

「遺品」●
 速度というものの上限は光速であるとされている。宇宙の大きさは推測でしかないが、宇宙での光速がいかに遅いかは光年を考えれば分かる。
 パワーズオブテンという短編映像ではミクロからマクロまでのイメージを具体的に提示している。あまり覚えてはいないが、たしか、「リング」「らせん」「ループ」シリーズ(小説のほう)の最後もこんなじゃなかったか。
 作者の想像力がそんなところにあるのではないかと推察すると実に興味深い。私はこういった方向が好きである。また「箱の中の少女」という怪談に通ずるものも感じた。
 今のところ、今回一押しの作品であろう。

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