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 今度は何を意識してということは書いているうちにか失われてしまい、なぜ何のために書いているのかということさえ忘れてしまったような気がする。それでも、自分の気持ちがどうあろうと今が最大の機会なのだ、とそれだけを思って書き、出す。

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擬装☆少女 千字一時物語36.6

 あの雑誌の読者モデルは実は男だったという噂を先触れに、噂の人、佐藤伊織が駅前通りに現れた。私の勤めるコスメショップの筋向かいにある女の子向けの洋服屋でバイトを始めたのだ。雑誌で絶賛されていたセンスの高さは本物で、自らのルックスもさることながらお客様への見立ても上手く、店の評判はたちまち上がった。それは私にとっても、噂で聞き、筋向かいから目で見るだけのものではなかった。彼の見立ては洋服に限るものではなく、ブーツやコスメ、果てはメガネにまで至り、洋服屋で勧めを受けた女の子たちがそれらの店に流れてくるのだ。実際、コスメショップも他の店も売り上げが伸びていると言う。もしもウチが彼を獲っていたら、とたまに店長が呟く。しかし私は彼の押しの強い印象に、少し敬遠を抱いていた。
 彼はときどきコスメショップにも、他の店にも姿を見せる。主に新作のチェックのためらしい。彼の流してくれるお客様は迷わず何かを買ってくれるのだが、彼自身はものすごく迷い、試し、人に聞き、聞かれ、結局何も買わずに帰ってしまうこともある。そういうところは普通の女の子だ。その彼がいつの間にか店内にいた。商品搬入をしていた私は、手を止めて型どおりの挨拶だけをした。今日の彼はまだ暑いだろうにニット帽を被り、無地のTシャツと多色柄チェックのロングシャツを重ねて、七分丈のジーンズにシンプルなブーツを合わせていた。派手とは違うのだが、わずかに目を留めただけで感じられる誰もが認めざるを得ないセンスが、彼には確かにある。ブーツの足音は意外にも私に近づいてきて、段ボール箱を持ち上げようとしゃがんでいた真正面から、そっち持って、と声が掛けられた。慌てて持ち上げると、さっきまでの苦労が嘘のように軽かった。空きが目立ってきていた新作コーナーは瞬く間に補充された。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 その笑顔に何とはなしに居たたまれなくなって、私は笑いに紛らわせようとした。
「こんなに手足太いのにさ、全然力なんかなくて。見掛け倒しだよね、あははは」
 しかしそれは失敗だったらしく、彼は笑ってくれなかった。馬鹿にされてしまったか。
「女の子だから、力なくて当然でしょ」
 当たり前のことを言うように彼が言ったことが意外で、余計に居たたまれなくなった私は挨拶もせずに仕事に戻ってしまった。後ろから聞こえてきた彼を見つけてはしゃぎだした声が、じゃまだった。

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 憎い、憎い、『36+1/2』が憎い。

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