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 今度は改変です。その意図は『京都』のときのふたつと、来期投稿作品の題材がまったく思いつかないことへの自暴自棄と、海坂氏の感想への反発です。
 名前とは、その人を指し示すただの記号ではない場合があると思うのです。場面によっては、何よりも重い、自分そのもの。『ビューティフル・ネーム』における名前をあげる決意は自分を捧げることであると言っても良いと、私は思っております。それにしても書き方が足りないと思ったからこそ、感想への感想ではなく、改変に挑戦しました。
 やはり千字では無理ですね。私も無理やり千字にしましたが、書きながら削って、書いてから削って削って、三千字まで膨らませた方が楽だったかもしれないと思いました。花火の描写をなくすために強引に花火をキャンセルして、他にも半数以上の行から描写を削って削って、伝わらないものになってしまっているかもしれませんが、このまま終わらせたくないという気持ちで出します次第です。

―――

アンマッチ・ネーム

「ねえ、景。もし景に好きな人がいるなら、あたしのことなんか構ってくれなくて良いから」
 これが綾の口癖。幼稚園の頃からの付き合いで、何につけても行動派で男勝りで、私はそんな彼女の後をヒヨコのようにくっついて育ってきた。その綾が時々思い出したように繰り返す口癖が、これだった。
「好きな人なんかいないよ。私は綾といるのが好き」
 いつもの答えを返せば、綾はほっとした表情をするはずだった。しかし、あの時は違った。綾は思いつめたような表情でしばらく黙っていて、ようやく告げた。
「一年、待ってほしい。あたしきっと、景にふさわしくなって帰ってくる」
 あれから一年、綾が初めてくれた連絡は、花火大会で会おうというメールだった。それなのに、綾は花火大会会場に現れなかった。不安に思った私は、綾に断りも入れずに彼女のアパートを訪ねた。

「綾!?」
 自室でうずくまっていた綾は、ひどく憔悴していた。刈り込んだ髪に逞しい腕と、その相貌もひどく変わっていた。私が目の前に屈みこむと綾は、俺は女だ、と呟いた。
「俺、この一年間、景の隣にいてもおかしく思われないようになるために頑張ったんだ。髪切って体鍛えて、胸だって取った」
「え、本当!?」
 膝に隠れていてわからなかった。Dカップの羨ましい胸は、どこにもなかった。
「俺って喋り方も板についてきて、これなら景の隣に立てるって思ったんだ。それなのに……」
 私のためにあの胸まで捨てて。私はただ衝撃だった。
「生理が来て、俺が女だって……。こんな名前が悪いんだ。名前が、俺を女々しくさせるんだ……」
 綾が一度私の名前を褒めてくれたことを思い出した。あの頃からずっと綾は苦しんでいたのだろうか。
「ばか!」
 私は綾を抱きしめた。もう何も喋らせたくなかった。一人でボロボロになった綾が可哀想で、それなのに何もしてあげられなかった自分に腹が立って、私は身も世もなく泣き叫んだ。
「……良い考えがあるの」
 初めて綾が顔を上げた。
「あなたに、名前をあげる」
「名前……?」
「私の名前。あなたは今日から、景」
「景……?」
 綾、いや、景の目に光が灯ったようだった。
「そして私は、今日から、綾。女々しいあなたは、私がもらってあげる。本当はあのDカップも欲しかったけどね」
「綾……!」
 景が私に抱き返してきた。
「愛してる。ずっとずっと、愛してる」
 涙の中で誓った、真実の愛。私たちは共に歩き続ける絶対の決意をした。

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