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なんだか愚痴みたいな感想になってしまいましたが、今月の全部の感想です。
※思えば自分が参加したのが30期あたりで、いま60期くらいで、平均20作品が投稿されていたとすると、30期×20作品で、約600作品は読んでいるわけで、ああこれは昔読んだな、前に見たテーマだな、というのが出てくるのは仕方ないなと、もちろん「短編」以外にも小説は読んでいるわけだし、と思う反面、こうして人は愛着のある場所を自分のものだと勘違いし、新しいものに期待しなくなって老いてゆくんだなと実感しました。
ただそれでもこれは新しいと思うこともあり、それはそれで嬉しいです。

1 夏の動物 森 綾乃 991
ちょい女とキリンの距離の縮まり方が早いとか、ダッシュのみっつ重ねとか、感嘆符疑問符のスペース空け無しとか、冒頭で夕方であれば最後は夜になっていそうだとか、「NYのビジネスホテル備え付け」のメモとかぱっと分かるんだろうか、とか、細かいアクシデントは感じるんだけど、それに目をつぶれば、この人間世界のパノラマを見ているようでよかった。他人のおおぜいいる世界に、一人の自分が忍び込むような感じで。最後の一文は気持ちよかった。

2 世界一短い推理小説(千字ver) Et.was 1000
一文であってもテクストを解読するのは楽しい。机上の空論を回転させるのも楽しい。だけど、もう一層足して、その空論が回転する様子を、たとえば違う視点から見ている部分も欲しかったなと。

3 淑女渇望 柊葉一 943
舞台の設定を現代の日本にしないのは創作から逃げている感じがして、ちょっともったいないなと思った。このモチーフ、「奪われたいほどの愛」みたいなのを現代の日本とかで成立させるような話にしたら、もうちょっと灰汁のある話になったのではないかなと。

4 追い風 ハコ 1000
日本の話だと思っていたら「銃器屋」でどこの国の話か分からなくなって、もったいないなと思った。「追い風」は一般的にポジティヴなワードだと思っていたので、アゲインスト、向かい風はネガティヴだが、別に吹いてても構わなくないか、と思うものの、作中ではそうではないので、主人公が「追い風」に対して、なぜ嫌なのか書いてあるとよかった。

5 ナレーション K 1000
随想も、作者の思考の残像を追うようで、それはそれで楽しいのだけども、読者の楽しみのためにもうちょっとねじくれていて欲しかった。

6 求ム、 翻車魚 1000
上品な愚痴だ。
個人的に、常々、小説はある側面では、直観的に人の心が分からない人が読むためのものであって、分かる人には必要がないものだと思っている。あるいは人とあまり接しない人。
あるいは視点を共有しないと気がすまない人のためのもの。でも、共有しないで生きていける人なんているのかね。作品と関係のない個人的な感慨でした。

7 たけしの観照(3+9=?) 宇加谷 研一郎 1000
俺のただの思い出なんだけど、古本屋で、老人が、「蟻が十匹、猿が五匹。ありがとうでござる」と店員に言っていたのが10年以上前の記憶なのに忘れられなくて、こういう言葉遊びはとても大好きです。

8 舌鼓 bear's Son 1000
したづつみって読むんじゃないのか、と思っていたら、終わってしまった感じがする。もうすこし足して欲しい。1000字には短歌ふたつぶんくらいのボリュームが欲しい。いいかげんな目安だけども。

9 ひつじ雲 白縫 999
大きな問題もないと思うのだけど、物足りなく、もうすこし素材を増やして欲しかったなと思った。「非論理的」というワードを使うほど大人っぽいキャラクタには
思えなかった。

10 Corruption of the best becomes the worst 崎村 978
こちらも、もうちょっとアイディア、を注ぎ足して欲しかった。ぜんぜん問題ないと思うのだけど、たとえば、
>「まあ……ね」
の一言を、無言にしてみたりして、女に期待を、男は若しかしたら別の女に会いに行きやしないといった期待を、抱かせてみることも可能で、そしてそのうすっぺらな期待を、たとえば、男の携帯電話の別の女からの着信であっさり打ち砕いてみせることによって、女の絶望をより効果的に表現できたりすると思う。

11 小あじの南蛮漬け 長月夕子 991
鯵がたまらない。
今月の森さん的な瑕を感じて、
「指についた血をぬぐい」があっさりしすぎた物言いなのと、
「不意にカレンダーの今日の日付を」が不意に見つけられるのが、
都合よすぎるのと、最後の一行が、いわゆる心情を第三者に仮託した系の、
常套手段すぎな印象を受けた。

じとりとした歩みの文章は日常感があってよかった。

12 らくだと全ての夢の果て 新井 853
これもアイディアが少ない感じがした。
もうちょこっと足して欲しい。

13 アイ ウォント ユー 田中彼方 1000
長音符「ー」と、ダッシュ「―」は違う記号なので気をつけたし。
人を殺す話は、なんというか、いち時期よりも減った気もするんだけど、
今月の崎村さんのもそうだと思うのだけれども、
ただ、やはり、単純に、孤独な人が思いあまって人を殺してしまう話は、
類作が多すぎてこれはと思う作品を書くのが難しいと思う。
そのありきたり感以外は、別に問題ないと思う。
実際の殺人事件に取材した体裁なら別だと思うけど。

14 擬装☆少女 千字一時物語24 黒田皐月 1000
登場人物が、何歳なのかとか、具体的な関係はどうだったのかとか、
そういったあたりも書きこんでくれると、もっと面白かったなと思う。
女装している人は特に珍しくもなく、だけどあんまりお近づきになれない、
という存在だと思うので。
最後の一文は、やはり今月の長月さんと同じく、
心情を第三者に仮託した系で、ありがちだ。
ありがちじゃない〆っていうのもほんとうにむつかしいけど。

15 右手と左手の会話(ソナタ形式) ロチェスター 1000
「アジャパー」ってどれくらいの人が分かるのだろうか。
言葉遊びを中心にした対話物で成功させるのはほんとにむつかしいなと、
思いました。

16 糞の礼 qbc 1000
これ、誠に申し訳ありません、最後のほうの、
>笹川さんがそのお菓子を食べながら言う。
は、
>関さんがそのお菓子を食べながら言う。
に脳内変換をしていただけたら幸いです。
ほんとうにすみません。

17 海退 川野佑己 1000
「何日か何週間後か判らないが、海に足を浸すことができれば、
すぐにも帰ると書き残してきた。了承を得られたかどうかは判らない」
のあたり、まさかそんなことで了承が得られるはずがないと思い、
現実と仮想のどっちにいったらいいんだろうかと、迷いました。
洒落なんだと一言添えてもらえたら良かったのに。
僕が戻れる目途がたったようでよかった。

18 仮面少女 壱倉柊 1000
いち風景のスケッチといった感じで、
特に問題もないのだけど、これももうすこしアイディアを
付け足して欲しかった。

19 車内の吐息 櫻 愛美 999
これも物足りなく、俺がよくやる方法だけど、
いったん1000字にまとめたものを起承転結の起承にしてしまい、
転結を新たに書き足してみると、さらに先が伸びてよいのじゃないのかと、
思った。
徒歩通学したらしたで、この子は、きっと、この事件のことを考えるのだろうし。
考えなくてもそれはそれでよいのだけれど。

20 顔 三浦 994
視点の移動をやられると単純に混乱してしまい、
なにがなんだかわけがわからなくなってしまう。
ぼんやりとした風景。

21 オレンジ fengshuang 606
これもべつにそこまで不自然でもないし、納得できないテーマでも、
なかったんだけど、もう一味足して欲しかったと思った。

22 常連のお客様 わらがや たかひろ 1000
文章の安心感という意味では、今月の翻車魚さんと並んで、
良かったと思う。
>人で賑わう商店街の路地裏に、長年続く喫茶店がある。
>木目のシンプルな外壁と、白い内壁のモダンな作りの店だ。
>真ん中の扉の奥にはカウンター。左右には椅子とテーブルが並び、
>右側に暖炉が置いてある。
なんであれ、冒頭で輪郭を与えられた文章は読みやすい。
これも特に問題はないが、もう一味欲しいところ。

23 祖母の入院 わたなべ かおる 982
これももうひとつはアイディアが欲しい。
最後が心情を第三者に仮託した系で、既視感があった。
※この小説の焦点は、私の祖母への心情で、
そうである場合、たとえば(私の動作)といった部分の
描写はその焦点をずらしたことになる。
小説の外側 → 内側     →     中心  →  小説の題材
(読者)>>(作者)>>(私の動作)>>(私の心情)>>(祖母の死)
焦点をぼやかすことは、読者にとっては、物語からの解放を感じさせるもので、
昔話の常套句「めでたしめでたし」に相当するようなもの。

24 さあ、みんなで! ハンニャ 999
全文がくだらない文でできているというのはすごい。
逐一この作品の文は意表を突くことしか狙っていないのではないかと思う。
破壊力があってよかった。

25 シルク るるるぶ☆どっぐちゃん 1000
「爆撃するセザンヌのCG」といった暗喩的想像力を刺激するワード、
「万雷の拍手」などの繰り返し、
「ここは俺に任せろ。なあにそう簡単に死ぬつもりは無いさ」などの無駄なかっこよさ、
総じると映画の予告編みたいな感じ。
正直なところ、るるるぶさんの作品を面白いとかそれよりも、
るるるぶさんの作品を面白くないと考える人の思考のパターンに興味がある。

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