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「スイカ」
 スイカが好きなことを書いたエッセイ的な文章、と捉えて、では、どう感想を書くかと言えば、途端に困ってしまう作品である。感想が書けないから評価ができない。言い換えれば、私の琴線に触れることはなかったのであるが、たぶん、内容が好きではないのだろうが、嫌いという確証も持てないから嫌いとも書けない。結果、ここをこうすれば良くなる、ということも書けない。それでも、消去法で評価に残る可能性だけはあるが、自発的に評価をかき立てられる作品ではないだろう。

「いっそ嫌いになりたかった」
 この作者の作品を読んで思うことは、もっとどんどん書くということである。作者のアイデアとか感覚とかがベースにあって、今、抱えている問題とかそんなものが昇華され、それが作品になるのは、誰しも少なからずあるもので、ただ、そういった、抱え込んだものって実は本人以外にはどうでもいいものが多くて、作者が捨てきれない灰汁とか澱のようなものであると私は考えている。だから、どんどん頭の中のアイデアを書いては捨て、それで、空っぽになった上で、どう書くかということが、読者を引きつける作品になると思うのである。そういう意味において、作品にあまり魅力を感じない。

「感情泥棒」
 自己が正しいということが前提にあって、主人公は部下にイラついていて、だから、部下の不甲斐なさよりも、主人公の言動が読者の心を嫌な意味でゆさぶる。内容の好き嫌いで言えば嫌いで、内容が嫌いな小説だから、評価軸からはずせばいいのだけれど、ちょっと冷静になって考えると、その嫌な部分が、評価できるのかも知れないと考えたりもする。
 どうでもいい、という小説はなくて、どうでもいいことを書いた時点で、それは、どうでもいいことではなくなってしまう。本当にどうでもいいことは書くことすらしないから、書いた時点で心は何かしら動いていることになるのである。だから、主人公の最後の言い方は、すごく作品を軽くしているように思う。たぶん、もっと違う最後があったはずである。

「夏の夢」
 夏らしい作品である。文章の書き出しを一文字あけなくなったのは、どういう意図なのであろうか。全体にはいい感じではあるけれど、ところどころ汲み取りが難しいところ(穴じゃない、空だ。などの叫び)があって、作品の質感を落としているのは残念である。父との関係性とか、お嫁さん(少女)との関係性とか、もう少し主人公と他者との関係性をほのめかすような場面があった方が、単なる夢ではなく、作品の深み、一歩抜け出た感じが出せたのではないだろうかと思う。第一印象は良かったものの読むにつれ、何か残らなくなってしまった。

「雨ニモマケヌ」
 前半に死のイメージを植え付けておいて、後半、生への転換を意識して書いた。はじめ、全てを死でいこうと考えていたが、それだと、作品の明るさ、兆しのような感覚がなくなると思いやめた。

「大富豪の家政婦」
 前作も含め、話しが面白くなる前に途切れる印象が残る、ということは、1000文字にまとめ切れていないということなのではないだろうか。連作が前提でないのであれば、いやなこととか、熊のぬいぐるみとか、シナモンロールとか、サングラスとかは不要で、女が「女」になったことが一番書かなければならない部分(それでも1000文字にまとめるのは難しいかも知れないが)なのではないだろうか。
 想像するに、作者は「いやなこと」とか「女」になった理由を本当は知らないのではないだろうか。知らないことで、あえて、書くのであれば、もっと違う方法もあったと推察できるけれど、面白い言葉とか、大富豪の家政婦という奇抜な設定に、ただ、溺れているだけのように私には映った。

「スピーチの草案」
 これも、主人公の自分を中心とした考え方の草案に嫌悪が湧く作品であるから、内容だけで言えば嫌いな小説になる。また、誰かの感想に「恋のくだりは全カットするところまで想像した」とあるが、実際そうなると、結局、ありきたりで乏しい内容しか残らなくなり、それだったら、多少修正して残した方がいい(変わった人間というレッテルも含めて自身をあえてそう印象づけさせる)のではないかと私は想像した。
 本当は広く一般に興味があるはずなのに、それを考古学を盾にして避け、しかし、知識欲ってのは、ある種、広くないと本筋の考古学にも活かされないことを主人公は知っているくせに、そういう態度になってしまうのは、本人の人間性のようなもので、それを自覚しているからこそ、自分を変わった人間として見せることにも動じない心も持ち合わせているように思った。

「繋がれた男」
1.暗い傷とは何か。

2.二行目に囚人が狂ってから久しいとあるので、その後、囚人に正常さを課すことは無理があるように思う。※以下参照
「主人の運命は、復讐するか深い憎しみを断つために自殺するかに分かたれていた。」…復讐は行われたので、自殺はなかったと解釈できる。
「始まる前から終わっていた復讐において、囚人に何が為せるだろうか。それならば生きてここを出て、受けた仕打ちを世に暴露したほうが、復讐が確かに存在したことを世に知らしめることになる。」…復讐がないことを言っていているので、復讐の前に自殺したとも考えられるが、囚人に行為を問うているので、この時点で囚人に多少の理性があり、脱獄を促しているようにもとれる。
「牢番は主人を裏切ることなどできない。だが牢番は主人の復讐に加担してここにいるのだ。」…だが、ではなく、だから、で一応の文章は成り立つ。

3.ペンを走らせるのは誰で、何を書いて(もしくは描いて)いるのか。

 これらの疑問の解決として、「囚人」と「主人」を同一人物と考えれば成立することが分かった。
 暗い傷とは、娘を食べたこと。
 始まる前から終わっていた復讐とは、娘を食べたことへの復讐が、自殺ではなく、自身を囚人にすることにあった。
 主人から囚人になった自分を出さないように言われていた牢番はそれに加担し、囚人である主人が出せと言っても、それは裏切りになるのでできない。
 ペンを走らせる疑問は謎。牢番が何かを記録しているといったところか。内容的に嫌いな小説ではあるが、謎解きのようなことができたのでそれを評価したい。

「任務遂行者と監視役」
 起承転結という流れで考えれば、まさしく、四小節で区切られた基本的展開と言える。ただ、それが分かったとしても、それは単なる構成要素であって、作品の面白さを見ようとすると、途端に面白さは消えて行く印象がある。隠れているのかも知れないが、私には裏にあるであろう面白さというものがつかめなかった。
 主人公と異性が何かをきっかけにくっついて、共に行動するパターンは、前作(主人公と宗教勧誘女性)、前々作(クリーム坊やと犬)でもそうだった。前作は1000文字以外の書かれていない部分に宇宙的な広がりがあった。今作は分かりやすいパターンとして書いているが、そこから感じるものが私にはなく、分かりやすさが逆に分かりにくい印象を作っていると思った。

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