仮掲示板

短編第78期に対する私の気力はこの辺りが限界な感想

 言ってしまえば、改変を書きたいものが思い浮かばない。好きな作品も探せていない。そう言ってみたものの、変わり映えなどしていない感想なのかもしれない。

#1 夢の男
 本筋は、夢で見た理想的な男に実際会って裏切られる、ということであり、それは良いと思うのだが、その本筋のための組み方には疑問を持ったところがあった。ひとつは「真新しくも夢で見たままの〜女の心を癒していく」であり、男以外の存在が女の心を癒す理由は語られていないと思った。もうひとつは既婚の男が未婚の女と同様に旅をしていることで、男の妻はそれで良いのだろうかと思った。
 文体などについて難を挙げるところはないと思う。これできちんとした五百字小説だろう。

#2 『ニューシネマパラダイム』
 最期の彼の台詞で読者に何を伝えたかったのだろうか、私にはわからなかった。うまいことを言いたかっただけという気がしないでもない。そもそも、主人公と彼が連れ立って映画を見に来たのかすらわからなかったので、なぜ客の少ない館内で隣り合って座っているのかもわからなかった。
 私はこの価値観が好きではない。誰の人生も自分が主役の舞台でありかつ他人の舞台の脇役であり、だからエンドロールの何番目に値するかを気にするのは、何の映画すなわち誰の人生に対してなのかということが肝要であろう。
 好きではないが、考えて作られている作品であることは間違いないだろう。

#3 痛み
 いい人過ぎて好きになれないと思ったのは絶対に私のせいだ。
 二重鍵括弧の理由がわからなかった。

#4 どちらかはトム?
 この作品の主題は何だろうか。
 ふたりの喋り方の使い分けがされていると思った。

#5 僕のやるべきこと
 描きたい心情があることはわかる。よくそれを描こうとできるものだとも思う。しかし、一介の中学生にそれができるのかと思い、さらにこの話の時系列がわからなかった。
 最初につまずいたのは「昨日まで待ち遠しかった美術の時間、外での写生が嫌で嫌で溜まらなかった」。いつ、なぜ転換したのか、わからなかった。それから、作中の現在の時点で描かれているのは美術の時間の写生か、美術部で取り組んでいる『自由』なのか、これもわからなかった。前者のような書き方がされている割に、後者のものも持ち歩いているのはどういうことなのだろうか。
 「とは言いつつ素直に綺麗だ、と思ったりもした」という矛盾した心情を描いているところは、良いと思う。

#6 あるアパートの一室
 思春期の女の子がひとりで暮らしているような書き方をされているが、そんなことなどありえるのかという疑問が最初に立つ。それから、その彼女が原因であることが語り手から突然に明かされるが、ここでそうされる理由がわからない。さらに言ってしまえば、この程度のことは興信所あたりで解決できるだろう。
 文体としては、悪いとは言えないが、やや読点が多いという印象を持った。

#7 発掘の日
 「圧縮空気の浮遊」とはどのような想像だろうということが、私の持った最大の疑問。気球のような浮力か、あるいはプロペラやジェットのような噴射か。前者であれば圧縮することに意味がなく、後者であれば周囲に迷惑だろうと考えたところで、この作品の読み方には何ら影響しないのであった。
 現在文明の滅亡後の想像は、発展で考えられるSFよりもずっと難しいことが、本作を読んでわかった。「超音波センサー」や「鉄」など、現在文明に似過ぎている印象を持ったが、そういうものを排して考えることは非常に難しい。

#8 銀行強盗
 主題は『ニューシネマパラダイス』と並んで面白く、しかも起承転結の転と結の速さが良い作品だと思った。

#9 桜の坂道
 桜と彼女の関係性がまったくわからなかった。感傷的なのはよろしいが、小説である以上、他者にその感傷が伝わるように描かなければならないだろう。

#10 1番ショートコウタ背番号6
 私が思うこの作品の一番良いところは、最後にチームの顛末を挙げたところである。そういう周囲に配慮を忘れない書き方は、良いと思う。
 GG佐藤は「グラヴィティゴッド」であって「野球の神様」ではないだろうとは思い、八十歳まで毎回間違えれば体重は百万倍になってしまうだろうとも思ったのだが、残酷でも、面白さは確かにあるのだろう。

#11 3分間
 温かい、とはこのような感覚なのだろうと思った。そういう調子を持った中で「カミソリと揺りかごが常に背中合わせだった」という表現が鋭く光っていると思う。それはその後の選曲にこめられているだけで、表現にされているのはたったひとつだけというところも良い。また、冒頭の天気の描き方とそれもまた心情の描写であるところも良いと思った。

#12 コーヒーゼリーと都会の月
 あざといと思ったら負けだ。
 文体などに難はない。

#13 ウナギとカメ
 ウナギの扱いがぞんざいだと思った。
 応援歌二百回という現実にはありえないところは、非現実を描いているところには合っていると思った。

#14 アイヨリモ、コイナラバ
 「電波」という言葉を見た瞬間に、私の読む気は半減した。
 主人公の葛藤をもう少し描いていればもっと良かったのだろうと思う。このままでは、主人公が人魚に、愛している、と言ったのが葛藤のいつの段階だったのかさえも、よくわからない。
 最後の一文は、「月がかげったのにも、気付かなかった」とすべきだろう。

#15 忘れるを知る
 それらしいものを書いてみたかった、という前期と同じ動機による、題名をうまくつけられなかった、という前期と同じ不満を持ったまま投稿した作品。いただく感想まで同じになるかもしれない。

#16 冬の思い出
 それが主題だろうはずなのに、主人公が車のライトを消して川に突進した心情がわからなかった。さらに、最後の一文で現場に戻ってきたということなのだろうか。

#17 羽化と、その後
 ゆるさ加減、それから五百字小説としての型は良いと思った。二段落ちと分類すべきものだろう。

#18 ニルヴァーナ
 解脱とは家賃を払わないことだろうか。それ以前に、人間の感覚は危険を回避するために存在している。目で見、匂いをかぎ、それでも飲んでしまうというのはどのような心情なのだろうか。

#19 ダイエット
 ケーキは炭水化物。

#20 景色
 毎度のごとく状況がよくわからないのはなぜだろう。今回私がわからなかったのは、「足場を蹴って、反動で見上げて」、主人公はどこでどのような動作をしているのかということと、そのときに見えた「ぴんと張る一本の筋」が何であるのかということと、必要のないことかもしれないが、なぜ主人公がそれをしているのかということである。

#21 ダークマター
 科学とはものの見方の一種であり信じる信じないは個人の考え方によるということを、本作を読んで思い出した。
 ダークマターを「宇宙に存在する目に見えない物質」と説明しているのは、後の話につなげることと短い説明にするためのことであろう。理論屋は「目に見えないものを信じる」という考え方は持たないもので、肝要なのは証明の可否だと思ったことが、私の感想である。

#22 暗闇
 最後まで読んでもう一度最初の一文を読むと、その時間の指定が何のためにされているのかがわからない。
 地獄の刑罰のひとつがこれなのかと思った私は、想像力が欠如しているのかもしれない。

#23 お母さん、僕はここにいるよ
 書き方がやや不親切だと思った。最初にそう思ったのは「ある日〜兄の実家に行くことにしました」と書いておきながら「三日後、4人は目的の駅に到着し」と書いたところ。三日前は決めただけで出発していないのだが、それとわかる書き方もあっただろう。改めて書いてみると、この「実家」も母親の実家で現在兄家族が住んでいる家なので「兄の実家」という書き方も正しくない。
 それから、「知らない内に、踏み切りに遮断機ができています」とされているが、死んだアキラの過ごす時間は現世を生きる者の時間と異なる流れ方をしており、眠っている間に踏切ができたということなのだろうか。

#24 天然
 これも仕様なのだろうが、「私」だったり「花子」だったりしているのはなぜだろうか。それから、職員室に向かうとき、主人公ではなく彼の足取りがカモシカとゴジラに例えられていたが、そこも主人公でなかったのはなぜだろうか。
 言い方は悪いが、いい度胸だ。

#25 春はトンカツ
 代わりに駄菓子のソースカツを買ってきてしまっては、宇加谷氏の作品ではなくなってしまう。などと言ってみたのは、太平楽だという以外に感想が思いつかなかったからだったりする。

#26 卵
 「謝ることが仕事だから」や「しょっぱい」、「もう元には戻らない」などの言葉が主人公の置かれている状況を象徴していると思った。何気ない行動の中に救いのないところがこの作品の良いところだと思う。

#27 犬の木
 感想を挙げるのが難しい作品であると思う。生きていることを描いていると言えば良いのだろうか。

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