仮掲示板

74期感想1−10


1「赤い目」

・納得できない点

「うさぎ達の所へ駆け寄りその場にへたり込むと、泣きながら謝った」

という一文が、大袈裟に思える。だって、これぜったいに嘘だろう? こんなことやったことないだろう? 観客の目を意識してるだろう? 一歩譲って、このうさぎが人間の比喩だったとする。それなら土下座することもあるかも、と思っても、やはり

「ごめん、ごめん、ごめんよ」

は、表現としてくどい。見てはいけないものを見てしまった気がする。

・参考にしたい点

 兎が好きでたまらないが、その「好きでたまらない気持ちがわずらわしいから逃がそう」と考え、はたまた「やっぱり自分を追いかけてくるうさぎはかわいい」「ごめん、ごめんよ」

……と二転三転する流れそのものがおもしろい。

2「いつまでも、貴方のもとに。」

・納得できない点

 16歳の男が28歳の女を閉じ込めている話だということはわかった。女が男に魅力を感じているというのもわかった。でも閉じ込められている女が「自由になりたい?」ときかれて

「いいえ、私はここにいるわ。」

と答えるところなどを読むと、すべてが男にとって都合がよすぎる。あまりにもこの話が作者自身の願望そのものであるようにしか思えなくなってくる。作者が理想的な男になりたいのか、尽くす女になりたいのかわからないが。

・参考にしたい点
 
 徹底的に閉じられた話であることに興味を覚える。この物語は密室の男と女と鳥しかでてこない。おまけに女は監禁されている。彼らの背景にあたる社会生活がまったくみえてこない。それは描き方次第ではプラスにもなる。制度や世間とはべつの、日常の異次元を垣間見せてくれる話になりうる。


3「マッチ箱より」

・納得できない点

 受験勉強で疲れた主人公とすてきな女と妄想の象という組み合わせのなかで、主人公の饒舌が気になる。仮にこれが長篇小説の一場面だとすれば問題ないかもしれないけれども、ひとつの話として読むと、結局は「何もしていないと死にたくなる。」といった主人公の独白がナルシスティックに思えて、そういった自意識過剰さが鼻につく。単純作業が僕を死への渇望から救ってくれる、とか、泳ぐのをやめると死んでしまう魚みたいなものなんだ、とか。

・参考にしたい点

「緑色のロングコートを羽織った女の子が残っていて、僕は彼女が廊下で一人でスキップしているのを見たことがあった。それで僕は少し彼女のことが好きになった」

という描写がとてもいい。ここはかっこつけていない。「泳ぐのをやめると死んでしまう魚みたいな」といった誰かが使ってるような表現より、拙い文ではあっても、自分の言葉がいい。この文章には力がある。


4「たまねぎ」

・納得できない点
 
 前半部分が納得できなかった。ピキューンピキューンの書き出しの文章はどこか読む気が萎える。次の、二○××年、彼らは世界中に現れた、というのも、文章としておいしくない。

・参考にしたい点

「大阪から広がった、一連のたまねぎ食い倒れブーム。」

中盤にでてくるこの一文が劇的によかった。この一文が、前半の説明的な印象をいっきに拭い去った。食糧危機の解決、とうまくまとめてしまうよりも、たまねぎの姿をした宇宙人が地球を襲うが「大阪から広がった、一連のたまねぎ食い倒れブーム。」に淡路島の人が呼応し、その結果、関西人が世界を救った、と持っていくほうが個人的には好きだと思った。それくらいこの一文は想像力を刺戟してくれる。


5「魔法使いレイリー・ロット」

・納得できない点

「ダンジョンの最深部でモンスターに囲まれたときも、レベル100のミミック」

という箇所が残念。何かの漫画やゲームを知っていることが前提で書かれている気がするから。伝説の剣とか。クエストとか。

・参考にしたい点

「酒場“愉快なゴブリン亭”の片隅でジンを舐めている彼」

という冒頭を読んだときは正直、すごく期待した。デイケンズの小説みたいだったから。モンスターや戦士などといった借り物の設定を使わず、普通の市井人たちがこの調子で描かれていればいいのにと思って残念だった。

6「ペプシコーラと死」

・納得できない点

「さっき遺書代わりに日記を書いたから読んどいてちょうだい。」

という箇所などを読んだ人は、これが「短編」でなければ、この続きを読むのをやめると思う。

・参考にしたい点

17歳の高校生が、ペプシコーラを飲んだら骨がとけるからいけません、と言われたのに反抗して、ペプシコーラを飲みまくった挙句に自殺にはしる――という設定が、アメリカの学園映画にでてきそうで、かわいらしい。

7「雨の日に」

・納得できない点

 「しっかりものの部長レナちゃんも、実は不安を抱えていたことを知った」という話なんだと思うが、それが冒頭の「親友のレナちゃんはいつも歌うことと笑うことしかしなかった。」という部分から予想できてしまう。そうすると小説を読むのが、結末を確認するために筋を追うようなことになってしまって、読み手としては不満がのこる。

 レナちゃんを泣かさなくてもよかったのではないか? と提起したい。いつも笑顔なわけないだろう、きっと陰でないてるんだろう、とむしろ主人公を疑り深くしておいて、それでもレナちゃんは泣かない、という方がいいと思うんだが。

『ずっとあとになって、私達は再会した。ねえレナちゃん。あのとき悔しくなかったの、どうしてレナちゃんは泣いたりしなかったの、と私はずっと疑問に思っていたことをきいた。そりゃあ悔しかったわよ、一生懸命やってたもん。とレナちゃんは言ったあと、泣いてやるもんかって思ってたわ、と呟いて、昔と同じように歯をみせて笑った』

(↑と刺戟されて書いてみた)

・参考にしたい点

「傘を忘れて、私は屋根のあるバス停まで一気に走りぬけた。カラフルな傘が通学路には並んでいて、私は無理やり間を通り抜けた。みんなに傘を忘れたことを気づかれたくなかった。」

 この箇所はとてもすてきだと思う。レナちゃんが泣くことで最後は終るだろう、と冒頭で予想してしまった私には、レナちゃんに既に興味はなく、むしろ上記の一文が、あまりに生き生きしていて、予測不能だったために、大袈裟にいえば少し慌てた。「私」の心の動きよりも、こうした状況部分がとてもすばらしい。


8「蟻」

・納得できない点

「そのときはじめて僕は彼を愛していたのだと知った。」

 この一文がそれまで積み上げてきたディテイル
をぶち壊してしまっている。僕は彼を愛す、という表現がホモセクシャルであるところもそうだけど、「俺はあの娘を愛してた」と、ホモ部分を置き換えたとしても、受け入れられない。つまり、「愛している」という言葉は、強い力をもっているから、作家は簡単にこうした言葉をつかうべきではない、とつよく思う。

・参考にしたい点

「蟻はすべて採集し、それぞれの個体の色彩の微妙な違いに関する「研究」(当時、僕はそう呼んでいた)に夢中」

 という箇所から、話しかけられても「それどころではない」というほどまで、蟻の色彩に夢中な主人公という設定がおもしろかった。無理矢理「恋話」へつなげる必要はなかったのではないか、と思う。このまま蟻の研究に没頭している男の話として終えるのも味わいがあると思うのだが。


9「無限大はどこまでも」


(投票予定)


10「10時5分ちょっと前」

・納得できない点

よくわからなかった。10時5分ちょっと前、というのがキーポイントなのだということはわかったが、「私があなたに出合った」というのと「彼」というのは同一人物なのか? そして、中学や高校のエピソードがあるけれど、ここで語られている彼らは学生なのか、大人なのか? 

・参考にしたい点

この主人公は「彼」(あるいは「あなた」)のことを好きだとあるけれど、この「彼」のどこに魅力があるのかが少しも書かれていない。これは「納得できない」ところともとれるけれども、恋愛の盲目を表現しているのだとしたら、ある種の真実だろう。

74期感想11-20

11「結して開す」

・納得できない点

 文章的に納得できないところはまったくなし。それどころか見習わなければならないほどの名文であると思う。コンテストの優勝候補間違いなしだ。

……しかし、それゆえに「納得できない」。私はこの完成度の高さより、むしろ「無限大はどこまでも」を個人的に好む。

この話が少年と老人を中心に東西南北にそれぞれ位置する人物たちの群像劇であるという構成やそれぞれのエピソードを無駄をそぎおとした字数で描きつくしている点などなど、あまりに研ぎ澄まされている。切れ味が鋭すぎていて、それは……少し厭味にうつる。カジュアルなレストランに全身ブランド物で着飾ってきているような印象だ。しかし、そのブランドの着こなしが完璧なので、センスが悪いわけではない、そういう点で不満だ。

・参考にしたい点

 「納得できない点」は、そのまま「参考にしたい点」ともなる。この話に登場する人物たちが陽光でも暗黒でもなく、夕焼け色の哀愁を漂わせているところがいいなと思う。

はっきりいって、技術だけでいえば短編の過去作品すべてを超えているのではないだろうか。知性を誇示してくるようにみえるのが惜しまれる。


12「擬装☆少女 千字一時物語40」

(投票予定)


13「雷」

・納得できない点

「悲しいときは突然現れる事もあることを学んだ」

この物語は、後半のこの一文に集約されている。なので「母の死」というテーマの随筆であれば、文句のつけようがないけれども、小説であるとすると、「母の死→哀しみは突然→家族は大事」という流れにリズムがないように思える。意見が優等生的でありすぎる。本当に悲しいことはもっと隠して、ひっそりと描かなければいけない。

・参考にしたい点

「妻や子供達に恥ずかしながらもなかなか言えない気持ち」

という一文が素朴であっても力強いなあと思った。この作品はこの一文が根となって書き出されたのではないだろうか。


14「ゆめ」

・納得できない点

ずっと平仮名まじりのユルユルの文体できていて「僕は彼を値踏みする。」の箇所が妙に浮いている。この一文が重要なんだろうと思うが、私はここがなんとなく納得できない。遊園地で迷子になって座り込んだ主人公に興味をもてない。

・参考にしたい点

緩やかな文体に興味を持つ。最後まで読まされてしまったから。

15「大森ヨシユキの恋」

・納得できない点

「さらに“キモい”笑顔を全開にして」
とあるけれども、社内ではイケメンで通っているのだったら、この「キモい」は「僕」の主観となる。そうすると、「いいラブホテル・・」のセリフがいきてこない。

・参考にしたい点

「休んでばかりいる同僚のひとみちゃんの愚痴」「受領伝票を忘れたまま」の箇所にリアリティがある。ブログとして読むと面白いだろう。

16「夢の中」

・納得できない点

不条理な夢、というのは多いのでいささか読み飽きた気がしている。名の知れた作家たちもよく書いている。個人的だが先日もレイモンド・カーヴァーの短編で読んだし、小林某という作家の「電話男」という小説もこんな話だった。この話から夢や電話といった条件をなくして再構成したらもっと独自性がでると思う。

・参考にしたい点

どこがいい、というより、文章の流れが自然で、なにか冒険が始まるようでワクワクする。こうしたハードボイルドな雰囲気を自然にだせることは今後、この作家の武器となるだろうと思った。「そのまま動くなよ。また、夢で会おうぜ…」とか。夢で会おうぜ…の一文をつけたすところはありそうで、なかなかない。

17「遠い彼女」

・納得できない点

好きな女は現実ではなくDVDの世界の女だ、というラストの一文をひっぱりすぎている。とくに前半部分の答えようか答えまいかと悩む部分が長い。

・参考にしたい点

「好きな子って、いる?」と唐突に話しかける同級生の存在感にとても興味をおぼえる。彼はこの物語ではこの発言のほかに「何? 誰? うちの学年か?」くらいしか喋っていないのに。不思議だ。

18「FUSE」

・納得できない点

「布施」なのか「FUSE」なのか、という問いのたてかたは好きではない。なぜなら文字があって意味がうまれるのではなく意味から文字はうまれているからだ。だから文字をとりだして意味をあてはめようとする主人公の心の動きはリンゴをみて「なぜアカなんだ、ミドリじゃわるいか」と突っかかるようなものだと個人的に思っている。アカもミドリも記号にすぎない。りんごの色はアカとよばれようがミドリとよばれようが、本質は変わらない。

それに、ここまで「ふせ」にこだわるのであれば、「ふせ」を文字ではなく行動に絡める結末へ持っていってもいいのではとおもった。

『目をとじ耳をふさぎ、おれは走り出そうとしていた。すると何かにぶつかった。盲人がおれに空き缶を差し出している。無視したがふりむくと、気の抜けた横顔をした群衆のひとりが500円玉を投げ入れていた。ああ!おれの頭を支配していた「布施」と「FUSE」が溶けていく! おれは盲人の前に戻り、財布の1000円札3枚を空き缶にねじこんで、くそおくそお、とわめいた。群衆のひとりは唖然とし、盲人は微笑んでいた。ふと、さっきの駅員もおれを笑っているのではないかと思った』

(↑刺戟されたので書いてみた。拙い例で申し訳ない)

・参考にしたい点

物語のなかで主人公が世界の事象を自分の言葉で考えようとしていることが貴重だと思った。この作品では私には言葉遊びの域からでていないと思ったけれども、いずれその段階を終えたら、この作者にしか描けない世界観というものが生れるだろう。自分で考えているから。

19「ホテルオンザヒル」

・納得できない点

「誰かが居るのかもしれない」というあたりから、話の展開がはやすぎるように思えた。前半にホテルの描写に字数をとっているので、そのままホテルそのものを描けばいいのにと思った。父の最期、が入ってくると、展開がありふれたものとなる。

・参考にしたい点

ホテルの描写がよかった。「水道水がまだ通っていることを見つけた」あたりなど。遊び場としてこういうホテルがあれば楽しそうだ。


20「レインコート、ゴオゴオ!」

・納得できない点

いろいろと省略が多い話である。この主人公が何者なのか冒頭を読んでも伝わらない。一度最後まで読み終えて、再度読み直してみて、ああマッサージ屋か、とわかる。ひねくれた仕組みだ。

この作者に対する信頼がある読者ならば楽しめるかもしれないが、そうではない読み手には疲れる作品だろう。

・参考にしたい点

納得できない点が参考にしたい点となる矛盾は読書にはしばしば起りうる。わかる人にわかってもらえればいい、という姿勢は嫌いではない。

74期感想21-28

21「犬」

・納得できない点

名前がややこしいと思った。ケルベロスという種名(?)があって、惣一郎惣三郎とでてくる。ベスにエリザにオルトロスとわけがわからなくなってくる。それで幼なじみの印象が残らなくなってしまう。

・参考にしたい点

頭が五つある犬が、まったくの抵抗なしに物語のなかに存在している。

「ケルベロスとオルトロスの雑種なの。すっごいでしょ」

こういう一文も、まったく空々しくひびかない。すごい。

22「雨の日」

・納得できない点

カポカポと、タンタンシャラシャラと、ザーザーと――こういった箇所がよけいに使われすぎていると思った。

・参考にしたい点

しかしながら、作者の文体実験のようでもあって、その心意気はおもしろいと思う。


23「坂のウエの景色」

・納得できない点

いい話だと思う。でも「坂のウエからみた景色を今も忘れない。一生忘れない。」といわれたって「へーーえ」と答えるしかないな、と思う。明るかった、ただ明るかったと言われても、読み手にはその明るさがわからない。「僕」の父さんの豆腐の味も私にはわからない。坂の景色も豆腐の味も作者だけが知っているようで私は不満だ。

・参考にしたい点

この話は「すごくいい」らしい景色も味も読者には味あわせてくれないが、「すごくいい」ものを紹介しようとしていることは伝わってきた。もう少し書きなれて、「僕」の語りに力量がつくのを待つのも、「短編」の楽しみだろうか。

24「白線 」

・納得できない点

「その直後に男は女に付き合わないかと誘った。」という部分で、やっぱりな、と思った。

やはり34歳の男は学生バイトの女を誘ってしまうのが残念である。「34歳の男は若い女に性欲を覚えるものである」という世間が考えそうなことがそのまま使われているのが残念なのだ。むしろ、この34歳男性は巨体で豚のようで脂ぎって、みるからにエロそうだと学生バイトにびびらせておいて、その実、彼が何もしてこないことに学生バイトが逆に感心を持つ、「この豚は清潔だわ!」という流れならよかった。

・参考にしたい点

そうは言っても、主人公の小説をめぐる箇所の飾られていない言葉がいいなと思った。小説は文章を飾るものでブログや日記は正直に書くもの、という認識があるのだとしたら、私はそれは逆であると思っている。好みの問題だが。

あと「学生演劇」をうまく伏線としていかしているな、と感心した。

25「虫満ちる地の夢」

・納得できない点

グロテスクな夢の話というのは、グロテスクの中にある美、みたいなのがない限りは読むのはきつい。

・参考にしたい点

「悪い夢だな。疲れてるんじゃないのか?」
というのを率直にいえるのは良いなあと思う。


26「ケイタイ貴族」

・納得できない点

「死と隣合わせの冬の登山をこよなく愛する僕は、登山家がよく口にする『そこに山があるから』などという美化された言葉がキライだ。」

とあるけれども「そこに山があるから」って、しつこいマスコミ相手に、なんとか山登りを美化しないように苦しんだ挙句のそっけないセリフだと思うので、「死と隣りあわせだから」のほうが美化されていると思う。

・参考にしたい点

この『クサカヒトシ』というのに意味があるんだろうか、とちょっとワクワクした。何か勢いがあるので。

27「蟻と作曲家」

・納得できない点

キリギリスの存在が後半無視されていることに、蟻の傲慢さをかんじる。蟻の「みんな僕を見てー!」と叫んでいるところをキリギリスはどう思っているだろうか。盲目の作曲家にしても、自分の曲が弾かれていることで涙をながす、というのは仕掛けがたりない気がする。曲がただ弾かれるということはそんなに光栄なことだろうか。

むしろ、かつては有名だったある盲目作曲家が華麗に舞台で演奏するキリギリスに曲を提供しようとするが「おいぼれじじい」と楽譜を捨てられた、という設定ではじめるのはどうか。

盲目作曲家が落ちこんでいると、へたくそなヴァイオリンが聴こえ、かけつけてみると、いつまでたっても注目をあびず軽蔑さえしていたアリが捨てられた楽譜をひろって弾いている。「おっさん、これええ曲やなわてにちょうだい」とアリが言って、二人は炉辺で乾杯しながらアリは演奏し、盲目作曲家が手拍子をする……というのが自分の好みだ。

・参考にしたい点

「労働者階級の僕と違っていいなー」という点がしみじみと心にのこった。こういう経験がある。

28「眼鏡」

(投票予定)



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