仮掲示板

73期の感想です。

 こんにちは、Kです。「短編」というサイトの全体に参加してみたかったので、この掲示板にも参加したく思いました。好き嫌いで判断している部分もありますし、「わからない」で済ましているのも多いですが、感想です。

#1 八〇
 支離滅裂に文章の意味構造を破壊しようという試みだと思われますが、難しいのは「意味がわからない」は「意味がわかる」との差異によってしか測定できないということだと思います。「意味がわかる」という推進力を、「意味がわからない」によって脱臼させる、という方法をとらなければ、衒いに終わってしまうように思われます。他に意図があればすいませんが、僕にはわかりません。単に無理問答を続けているような印象です。

#2 移りぎ
 わかりません。わからないのは、いまこの文体を選ぶことに何の意味があるのかが、です。現代的な内容を語りなおすでもなく、いかにも古文的表現で、古文のような内容を淡々と物語ること、そのことに一体どのような意味があるのかが、よくわからないのです。

#3 ミクの一番好きな匂い
「鼻が利く」という事象の二重表象によってストーリーが運んでいくところは面白いと思いました(この内容ならば、ミクは婚約指輪まで見透かすのかと思っていましたが)。「ミク」を「俺」にとってもっと超越的な存在にした方が僕はよりいいと思います。気になったのは、後半部の文頭に、「ミク」が幾つも並んでいることで、何だか平坦な印象を受けました。

#4 気がかりなこと
 結局よくわかりません。「ビキニ姿の女」は「ぼく」と結婚したのに、老紳士の妻でもある。老紳士の自殺を妻はビキニ姿で止めたのでしょうか。

#5 空はオールブルー
「現実逃避」という言葉から察するにこれは、「」内が鳥に向かっての保守的な心の声、()内が「俺」の作り出した「鳥」の声(つまり自己否定)、地の文がそれを見下ろしながらメタレベルに立つ「俺」の主観/客観なんでしょうね、つまり三つのレベルで心内対話が繰り広げられている。最後にメタレベルで締めたのは纏まりをつくるという面ではいいでしょうが、どこか他人事のような印象を受けてしまいました。

#6 果実の子
「葉子」は、常に幸せでありたい存在として描かれています。痴漢に遭っても体よく「お弁当日和」に転換して、男の子を勝手に「桃男」と名付け「幸せな果実のようだ」と盗み去る。「葉子」は自分本位でありポジティブな主体です。その「葉子」が弁当を払いのけられた瞬間に、「果実はもう幸せではない」と感じるのは当然で、「幸せな果実」は「桃男」が「幸せ」なのでなくて、「桃男」と共にいる自分本位な「葉子」が「幸せ」だからだと思われます。最後の場面が面白くて、
>私のお昼ご飯はどうなるのだろう? そして、貴重な犠牲である豚と、六時起きで豚を焼いたお母さん、有機農園で娘のように愛情を注いでキャベツを育てた何某の立場は?
と、あれこれ都合よく正当化してまくしたてるにもかかわらず、「葉子」は目の前の「桃男」の立場を一切考えていません。つまり「葉子」に他者は存在しないのです(男の子を、桃男≒果実、と見做しているところからも)。そして「幸せ」を取り戻すかのように「落ちたもの」を「夢中」で「突っ込ん」で、「桃男」は「とても静かに」なる(他者の存在を抑圧している)。「葉子」の幸せの破綻と収拾はきっちり顕在化出来ていると思いますが、欲を言えばあと一、二文で「葉子」自体を肯定または否定してほしかったなあ、と思います。

#7 ジャングルの夜
 ファンタジーですね。
>獣の部族といっても、虎の耳、豹の尾、ジャガーの足部、それら以外は人間の身体と似通っていて美しい。
 こういったありきたりな設定を使うのなら、それを想像力でもって如何に文学に昇華できるか、というところで勝負してほしいです。

#8 見えない壁
「尚美」によって気の無い「俺」が鼓舞される、という話なんでしょうが、それ以外にどうとも読めない(と思える)のが、何だか物足りなく思います。「温暖化」や「散水機」を伏線として使えればより豊かな小説になったのではないかと思います。

#9 ココロノツナギカタ
 単なる現状肯定型の主体確認作業的ロマンティシズムは凡庸に映ります。いま、それをやろうとするならば、それが「凡庸に映る」という諦念から始めなければならないのではないでしょうか。

#10 があは
「私」にとって、また「坂本の爺さん」にとって、「台風」「体育館」「家」とは何なのか、を明確に示して欲しいと思いました。非日常的な設定を用ることで何を言いたいのかがイマイチはっきりしませんでした。

#11 猫
 小噺的な落としどころは面白いと思いました。しかし「猫」が初めて喋り、人間に「生きてりゃそのうちいいことあるよ」という台詞には、「神に近づく」「妖怪になる」という条件が収束していないように思いました。これは好みの問題でしょうけれど。

#12 うどんだよ
 あっけらかんと肩の力が抜けていて、楽しく読めました。「俺」は過去の自分に対する悔しさと憤りを笑い飛ばしながら、今をこれでいいのだとばかりに肯定しています。これは、ロマンチックな現状肯定とは一線を画す「恥ずかしい表現も感傷の爆発も、愛想笑いで読み流す」という、ある種の諦念に裏づけされています。そして過去に拘っていた自分は真っ黒になった「ごぼう」とともに消えてなくなります。「女」に「ごぼう」のにおいがすることを指摘された「俺」は、今はそんなの無いだろとばかりに、
>焼きごぼうの匂い? 幻覚じゃねえか、ほら、うどんだよ、今日はうどんだよ。
と突きつけます。手間のかかる「筑前煮」から即席の「うどん」への転移が、過去の小説の重みを取り払っていまや、即席で書き換えようとさえしている「俺」にリンクしているわけですね。
 それにしても、「ほら、うどんだよ、今日はうどんだよ。」というフレーズにはえもいわれぬ力があるように思います。

#13 暖かな日の光
 改行を多く使った、風景をやわらかく描写する短いセンテンスは、幻想的な世界に浸っていたいという「少女」を想起させますが、最後の一文でどんでん返しを食らいます。言わばこの小説自体が、ロマンチックな詩的言語のパロディなのでしょう。美しいイメージを単純に言語化したところでうそ臭くしかならないのだ、というシニカルな目線に支えられた一篇だと思います。

#14 街灯
 ほとんど、ルポルタージュのようなもので、あまり題材が深められていないように思いました。これならば千字まで書いたほうが、より優れたものになるのではないかと思います。

#15 擬装☆少女 千字一時物語37
 連作として書かれているようなので、何とも言えないです(全部読んだわけではありませんし)。作品がどうのと言うよりも、一人くらいこういうことをする人が居たほうが、読者としては面白いです(非常に個人的な感想)。

#16 鳥籠から見た自由
『空はオールブルー』と思いっきり題材が被ってますね。喋るオウムが凡庸な環境問題を口にするというところが偽善的に思えました。

#17 影踏み
 自分のです。

#18 バイバイありがとう さっよオナラ〜♪
 読みやすさ以外にこの文体が効果を上げているとは思えません。かりに「論理とか理屈とか」「しょうもないこと考えるの飽きちゃっ」たとしたならば、これが硬質な文体へのアンチテーゼになっていなければならないと思います。そのような目的で書かれたのではないように思えますので、通俗的な印象以外は残りませんでした。

#19 血戦
 内容については、「章博」という掴みどころのない主体の奇妙さが頭に残りますが、よくわかりませんでした。僕の力不足ではないかと頭を捻ってしまいます。それというのも、文章が綺麗に纏まって構築されており、文体が生み出す情景のリアリティは充分にあるからです。この作品について何かよい感想が書けないのが残念ですが、ひとまず僕にはわかりませんでした。

#20 青い空
 テーマをもっと掘り下げて欲しいなと思いました。たとえば、
>地球に立ち向かっている僕がそこにいるんだから格好いいのかも。
このセンテンスなんか、深めれば格段に良くなるように思います。まだ引き伸ばせるんですから千字まで書いて欲しいです。

#21 水の線路
「現実/想像」が転移していく様子が、美しい文体によって淀みなく描かれているように感じました。「僕」は前半部、辺りを描写していくのみで小説は実に淡々としており、「水の線路」というモチーフは「指先を水に浸」した途端に溢れ出します。僕はここに「川の水≒線路」という文学的想像力の発露する一瞬が小説の主題となっているのをみることが出来ると思います。「水を指に浸す」という具体的接触からアナロジーによって組み上げられる想像の世界は大きく広がっていきますが、それはまさに「一瞬」で否定されてしまいます。そして「水に浸していた指を引き上げ」て小説は終わるわけで、「水の線路」というモチーフが「僕」に到来したのは「一瞬」のことなのです。文学的想像を描くのではなく、それが「僕」に到来したその瞬間を描くというある種のメタレベルに立った作品で、非常に面白く読めました。

#22 キャンベルトマト スープ コーン
 詩については詳しくないのですが、非常に詩的な言語によって構成されているように思いました。内容レベルというよりも、その音楽的とも言える文字の連なりの迫力でグイグイ進めている印象です。これだけ意味内容に整合性がなくても、纏まっていると感じさせるのは単純にその言葉選びのセンスに縁るのではないかと思います。ゆえに何か感想を書こうと思っても纏まりません。内容に関して僕はよくわからないです。

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