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ピンポイント攻撃『京都』-Take2

 誰も待っていないのに、『京都』二次創作の第二弾です。
 どうして破局にしてしまったのか、自分でもわかりませんが、思いつきでこうなりました。完結していないとも思うのですが、出してしまいます。
 批判は、敢えて言っていただければ受けます。しかしそれよりも『京都』本体を論じていただいた方が有益ではないかと思っていることを、申し添えておきます。

―――

京都後夜

 翌日彼女が連れて行ってくれたのは、寺院でも仏閣でも庭園でもなくて、京都の街には違いないが、どことも言えない街並みだった。落ち着いた街並みには、観光客らしい姿はほとんどなかった。
 私たちはただのんびり歩いていた。小さな社に立ち寄ったり甘味処で蜜豆を食べたりと特に京都らしいことはしなかったのだが、舞妓さんとすれ違ったときには、やはりここは京都なのだと、今が逃避行の中であることを思った。彼女はあまり話をしなかった。私からは、できるはずもなかった。この逃避行に陶酔することで精一杯だった。
「行こうか」
 どこか寂しそうな声だった。西に傾いた陽が逆光になって、彼女の表情はよくわからなかった。私は考えもせずに頷いて、ちょうど近くのバス停に止まっていたバスに乗った。京都駅から新幹線に乗り、私たちは彼女が買ってくれたビールを飲んだ。昨晩眠れなかったことが手伝って、私はすぐにとろとろと眠りに落ちてしまった。
 新幹線を降りれば、彼女とは別れなければならない。夢の切符を自動改札へ捨てようとしたとき、手をぐんと引っ張られた。そのまま人通りから少し離れた場所まで、彼女は私を引っ張っていった。手を放した彼女は急に頭を下げて、ごめんなさい、と言った。どうして。驚いた私は何の反応も返せなかった。
「私、あなたの気持ちを知ってた。だけどあなたの気持ちには応えられない」
 当然のことなのに、面と向かって言われたことが衝撃だった。
「本当は、結構前からわかってた。ずっと私と同じ顔をしてたから」
 そう前置きして彼女は、彼女が彼女の上司と不倫の関係にあることを私に話して、もう一度深く頭を下げて謝った。私が何を返事したのかは覚えていない。彼女が、先輩で上司である彼女が私に謝っていることが信じられなかったことしか、思い出せない。
 私たちは改札を出て、仕事のときと同じような挨拶をして、別れた。とぼとぼと切符売り場へ歩いていると、慌しい足音が私の脇を通り過ぎて、息を切らせた彼女が私の目の前に現れた。
「私のことは嫌いになってくれて良いけど、あなたはあなたのことを嫌わないで、絶対。それだけは、約束して」
 それだけ言うと、彼女は私に背を向けて足早に立ち去った。
 無責任、どうして私はあんな人を好きになってしまったのだろうか。私は砂でできた彫像のように崩れてしまいそうだった。乾ききった心は、凍らせて固めることすらできそうになかった。

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