仮掲示板

第192期作品の感想

#1 最後の色相(世論以明日文句)
良かった点:
浮かんでくる桃色がデジャヴかと思うくらい鮮やかだった。静けさの中にリオの残響を感じて良い感じの寂しさがあった。
その他:
この後も主人公はコーヒーの出涸らしを使い続けるのか。

#2 ババーキッチャ(テックスロー)
良かった点:
ホームスチールからの肩透かし。皺の使い方。ババアなりの安定感もうまく表現されていると感じた。関係ないけどババーキッチュも読んでみたら良い話だった。
その他:
CAのOGって元CA同士でつるみがちなイメージなのだが実際どうなんだろう。そういう先入観ありきだと、一般人の輪に入っている美枝子は悪い人じゃないように思える。

#3 愛の渇望(雨ケ崎 夜)
良かった点:
破滅的な「愛」への異様な執着を書ききっている。そのぶんツッコミどころも多いが、共感できるかは別として言いたいことは分からないでもない。
その他:
虚構を使って愛への渇望、あるいは求める愛の形を例示してみるのも手だと思う。

#4 人間型(安井 馨)
良かった点:
「私のことを〜思わないでほしい。」のくだりが、急に観客にすり寄ってくる演劇の手法みたいで面白かった。Mの自傷癖は異常だが、Aに限らず我々も、精神的には似たようなことをしているのかもしれない、と思わせるメッセージ性があった。
その他:
自分の皮膚を切り取ってそばに置いておくと安心する心理が純粋によくわからない。

#5 魔女会議(舟都倶睦)
良かった点:
魔女たちの個性が豊か。かんかん照りと豪雪の対比が面白い。タイトルは怪しげだが内容はほのぼのしていて、力を抜いて読めた。
その他:
「こういう感じでいいんじゃない?」という片付け方にやや雑さを感じた。

#7 誕生(たなかなつみ)
良かった点:
「やがて慣れてくる〜存在であるということ。」のくだりが鮮やかだった。周りを知り、自分を知り、受け入れることは一種悟りのようでもある。
その他:
「目の前の存在」及びそれを葬り去るという行為は何かのメタファーなのだろうか。正直これだというものが連想できなかった。

#8 小説機械(euReka)
良かった点:
丁寧な文章だがどこか飄々としていて、読んでいて楽しかった。最後のくだりは完全にしてやられた。現実の南極に縁側はおそらく存在しないのでずるいとも感じたが、効果的に先入観をぶち壊してきたと思う。
その他:
2段落目では子供とのやりとりが過去形だが、3段落目では現在形になっている。そこに意図はあるのだろうか。

#9 彼岸の森(塩むすび)
良かった点:
腐敗した雰囲気がよく表現されている。もっとも、腐敗は生命活動である。殺人行為がきっかけであっても、生きることに想いを向けることができたのならそれは救いと思いたい(もちろんそれこそ悲劇だと見ることもできるが)。
その他:
主人公はこれから苦しむ気がする。シデムシは「死出虫」と書くことを知ってゾッとした。それを踏みにじったときの主人公の心情を知りたい。

#10 双眼鏡(岩西 健治)
良かった点:
「くねくね」は自分も読んだことがある怪談で、モデルがそれだとわかった途端に少しテンションが上がった。作中で「くねくね」を持ち出すことにより、作品自体にリアリティが出た気がする。ストーリーにも筋が通っている。
その他:
リアリティを追求するわけではないが、純粋な興味として、統合失調症は突発的に発症するものなのだろうか。あと姉はくねくねしなかったか。

#11 スカーフのゆれかた(ハギワラシンジ)
良かった点:
不思議な読後感があった。最後の「スカーフなら造作もないことだった」という部分は、転んだ恥ずかしい姿を人に笑われても笑い返せるような余裕とか柔軟さ(あるいは自我のなさ?)をスカーフの妖しげな揺れ方と重ねたのかな、と勝手に解釈した。最初に比べるとこのときの主人公はだいぶひらひらしている気がする。
その他:
高校時代の友達がまだ高校生をやっているというのは再入学したということなのか、比喩なのかファンタジーなのかがやや気になる。

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