仮掲示板

第166期全感想と「時間」について

 感想に入る前に、岩西さんの「時間」についての指摘↓に対して少し意見を。

「現実のこの世界に時間はあるのか、時間とは何か、といった問いはある。でも実際、我々は時間というものを感じて生きている。これは事実である。ということは時間のない小説などあり得ないことになる。時間のある世界で時間のない小説が書ければ、それはたぶんすごいことであるが、頭で想像することさえ私にはできない。 」

 私が考えている、物語(小説)の中の「時間」というのは、つまり時間の流れを設定するということ。だから知らない間に、必然的に「時間らしきもの」が物語に刻まれるということではなく、作者が意図的にそれを設定するということです。

 設定する時間には、長いものもあれば短いものもありますが、それ以外にも時間そのものが存在しない世界など、発想次第でどのような設定も可能でしょう。物語が成立しているかどうかは、その「時間の流れの設定(時間についての設定)」が、どのような形であれ、ちゃんとなされているかどうかということだと私は思っています。

 それから、この間掲示板に書いた私なりの小説の定義では、「物語=時間」ということを言いました。しかし、上で述べた「時間」についての説明とは矛盾してしまうのですが、特に時間を設定しない物語や小説というものもあるかもしれないなと、今は少し考え方を改めています。ただし、何でもありというわけではなく、そこには何らかの設定が必要になってくるわけですが・・・。このことについては、まだ考えがうまくまとまっていないので、また別の機会にでもお話できればと思います。

では、感想を。


#1 煮る

良い点:
日記を煮るという奇妙な儀式が描かれているのだけど、実際にやったことがあるかのうような描写の細かさや的確さがいい。

不満点:
日記を煮ることで過去を忘れたいということだけでなく、その行為をしたことによる何らかの変化のようなものが欲しい。これだけでは話として物足りない。


#2 画像の喪失

良い点:
「画像を思い浮かべることができない」という発想が面白い。それがどういうことで、どんな意味があるのかといった想像を喚起してくれる。

不満点:
前半は「画像を思い浮かべることができない」ことをただ説明しているだけなので、少し退屈。後半は謎の男が現れて少し面白くなってくるが、文字数が足りなくてなんとなく話を終わらせたという感じがしてしまう。


#3 半畳一間の礼拝堂

良い点:
語彙が豊かで、独特の視点や雰囲気を持っている。

不満点:
一つ一つの文章は悪くないが、構成がかなり荒っぽくて話がわかりづらい。


#4 銀座・仁坐・倫坐

良い点:
このサイトには内向的な作品の投稿が多いが、本作は(この作者の作品は毎回)かなり外向きなので妙に面白い。内向的な作品が近視眼的だとするなら、本作は遠視眼的といったところか。世界と自分との距離感というのも、小説の重要な要素だと思った。

不満点:
小説というよりコラム記事。

#5 講演会(後編)

良い点:
話の構成が上手くて読みやすい。笑いのセンスがあると思う。

不満点:
話は面白いが、単にネタを書いただけのように思える。もう一歩踏み込んだ何かが欲しい。


#6 ババーキッチュ

良い点:
後半まで読むと、いい話だなと思える。直接的にいい話に仕上げているのではなく、じわじわと回り道をしながら攻めて行く感じがいい。

不満点:
全体の構成が荒い。後半の、アイドル時代の話への入り方が唐突すぎて何の話なのか分からなくなる。それから、冒頭の一段落目が退屈。


#7 サロメの白昼夢

良い点:
手に入らないもの、または手に入れてはいけないものを我がものにすること、に対する罪悪感のようなものが、血や腐臭で表現されているのかなと思った。それから、夏の高揚感の裏側に貼り付いている絶望感のようなものがよく表現されている。

不満点:
主人公がこれだけのことをやる動機や気持ちの強さが今一つ見えてこないというか、その部分の表現が中途半端。動機の部分をあえて省略するという方法もありかもしれない。それから冒頭の2行は不要だと思う。


#8 虎

良い点:
描写が上手い。虎に脱皮?するときはこんな感じなのかなという気分にさせてくれる。

不満点:
長い物語の一部ならこれでもいいかもしれないが、一つの物語としての展開や着地点が弱いなと思う。


#9 存続の条件

良い点:
普通「私」というのは自我を持っているものとして位置づけられているけれど、ここで描かれている「わたし」は、その自我を持つ「私」とはまた違う次元の私ということだろうか。自我を持つ「私」とは矛盾する、あるいは包摂する「わたし(複数のライフ=生命そのもの)」というイメージがうまく表現されていると思う。

不満点:
小説というより、詩、または小説のプロローグ。物語がまだ始まっていない。


#10 そのあと、どうするのか?

良い点:
彼女の世界(思惑)と彼の世界は別のもので、なんとか重なり合おうとして一緒に時間を過ごしたり、相手の気持ちを確認し合ったりするのが恋人同士かなと思った。その彼女と彼の世界がお互いを探りながら同時進行している感じが良い。

不満点:
話の流れの中にアクセントがないというか、決め手になるものが欠けているような気がする。料理の盛り付けだって、ちょっとしたアクセントを加えるだけでおいしそうに見えたりする。


#11 忖度な一杯

良い点:
コーヒーが「美味しい」だけでは何かが足りないという疑問と、それに対する答えとしての自分なりの愛し方、そして「美味しい」だけでは見えない、別の世界への視点の転換がうまく表現されている。主人公にとっての愛とは、そこにあるものをそのまま愛するということだろうか。その考えも素敵だと思う。

不満点:
コーヒーの感想を記すという設定や行為は必要ない気がする。「イエメンのスラム街」の描写のところで話は落ちているから、最後の2段落はほとんど不要だろう。

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