第98期 #15
「小雪さんはあんまり考えていないね。いつも思うんだが、もう少しゴルフコースの攻め方を考えるようにしたほうがいいんじゃないかねぇ……」
おやっ、という表情で、小雪さんは、ちらりと栄太の様子を見た。それから
「……あら、そうかしら? 考えていますよ。パーでまわれるように」 と、いった。
ニャッとわらうと、屋福さん。
「だからね、駄目なんだよ。パーでまわるって、プロのやることだろ。アマはちがうよ」
小雪さんは、めったにミスしない。それでは勝てない。それがゴルフのおもしろいところなんだ。と、
そこまでお節介な事はいわないが……ニャッと笑った屋福さんの目はわらっていない。
「たとえば、ラフにわざと打ち込んでボールをとめるとか。やってみたことある?」
「おやおや、なんでそんなことするんですか? わたしはラフに打ち込むことなんかめったにありませんよ」 と、小雪さん
一番ロングホールを、3オン3パットのボギーである。立派なものだ。滝音プロのパーは当然だが、屋福さんも栄太も、3パットのボギーである。
小雪さんがなにを言うと、いぶかしがるのも当たり前。
「たとえばこの次に打つときに、2パット狙いで、思い切ってグリーンはずれのラフに打ち込めばボールはとまる。そんな攻め方もあるってはなし」
次は、特徴のないミドルホール。370ヤード誰でも2オンできる距離だ。しかし、止まらないと、グリーン奥にこぼれるのが怖くて2オンは狙わないことも多い。
「飛ぶ人なら、不安がありますね。わたしは大丈夫。栄太君に聞かせてあげたいわね」
気持ちよくゴルフするのには、マナーが大切だ。なにも感じないでマイペースに歩くことも大切だ。考えるのはプレーが終わってからのほうがいい。
歩きながら、小雪さんがいった。
「いつもは握ると言い出す屋福さんなのに。今日はそれで調子が出ないのね?」
「いや、そんなことはないよ。ゴルフに賞金はつきものだ」
「それじゃ、栄太君になにかプレゼントっていうのはいかが?」
滝音プロはニコニコ笑っているばかり。
「うーん、そうだねぇ。もし勝ったら。まあ、滝音プロは別として、と、云うことは、わたしと、小雪さんに勝ったら。ということになるかな」
「わぁ、すごい、屋福さんのオーダーはメーカー特製よ」
なんと言っていいのか。返事のできない栄太
「まだ、初めてなので、パーをとったら。……に、しておくか?」 と、屋福さんが言い直した。