第97期 #1
殺し屋がいた。非情になりきれず、何処か優男を想像させるほどに、その殺し屋は甘かった。
ある日依頼を受けた。内容を見てその殺し屋はその依頼を断ろうとした。それどころか殺し屋すらやめようと考えた。
だが、殺し屋が踏み込んだ世界は何処に行き着いても「裏」、であった。
心優しき殺し屋が選択できるのは常に前に進むことをよしとするもの。つまりは殺すことだった。
「お願いだから殺さないで!お金なら幾らでもあげるから!!」、そう女は言った。
「いや駄目だ。俺はお前を殺す」そういう殺し屋には、何故だか依頼を受ける前の様な優しさが無かった。
「あなた...もしかしてジャン?ジャンなの?」女が言った名前は、殺し屋が裏の世界に入る際に捨てた名だった。
「あぁ。その通りだ」そう殺し屋は言った。続けて「あんたが殺しそこなったジャンだよ」と言った。
「...なるほど。ばれたのなら仕方が無いわね。実はね、ジャン。私あなたの事殺したいほど嫌いだったの!!」
そういって女は殺し屋を殺そうとし、そして......死んだ。
殺し屋は手についた汚れた血を拭き取り依頼書の裏を眺めた。
そこには”組織”が調べたターゲットのありとあらゆる情報が記載されていた。当然ジャンを殺そうとした動機も。
だが、今はそんな事どうでもいい。今はただ人を殺したくて、殺したくて、殺したくて仕方が無い。
”母親”と呼ぶには余りにも醜くて薄汚い存在”だった”モノを見下しながら殺し屋は笑った。
もう、殺し屋に弱さであり強さでもある優しさは無かった。最後に自分というターゲット殺して殺し屋となった。
正しく組織の狙い通りだった。母親の事もジャン庇って車に轢かれて死んだと伝え、他の家族についてもジャンにはとても素晴らしく感じられるよう組織が情報を操作した。
だがその実、父親はジャンの存在に嫌気がさして別の女と行方をくらまし、母親はジャンが再婚の邪魔になるからと言って殺そうとした。他の親族に関しても似たようなもの。正しくジャンは不遇なる人生だった。
真実は残酷で嘘は優しい。だが、今のジャンはそれ故に殺した。そしてこれからも彼は他人を殺し、自分を殺していくのだろう。
それが殺し屋、なのだから―――