第96期 #6

僕は雨が嫌いだ。
服は濡れるし、ジメジメしていて、どこか陰気な感じがするから。



ある日、僕は捨て犬に出会った。
そして、無意識の内に自分の住むアパートに連れ込んでいた。



特に動物が好きという訳でもないし、
アパートはペット禁止だ。
だから、バレたら面倒な事になる。
後々になってやっぱり拾わなければよかったと、そう思った。
そして...その日は雨だった。



だが、適当に付けた「ポチ」という在り来たりな名前をとても気に入った捨て犬は、より一層僕に懐いた。
そしてそんなポチを見て、僕のポチを見る目も次第にではあったが、優しいものとなっていった。



結局大家さんにポチの事がバレた為、家賃は高くなったがペット可の部屋に住む事にした。ポチと一緒ならば何処でも良かった。



休日は公園で一緒に遊び、平日は一緒にご飯を食べて一緒に寝た。
このまま、ポチと一緒にいられれば何もいらない。
そう思える程、僕はポチを気に入った。
雨はやはり嫌いだったが、"ポチに出会えた"、その事実が僕の考えを少しずつではあったが変えつつあった。




朝起きた時、ポチが死んでいた。




「ポチ、朝だよ」

「ほら、朝ごはんだよ、ポチ」

「寝過ぎは良くないぞ、ポチ」

「今週の休日はまた公園に行って遊ぼうか、ポチ」




何度も、何度も...僕はポチに語り続けた。
もしかしたら、また、嬉しそうに尻尾を振って返事をしてくれるかもしれない...そんな事を考えていた。



ようやくポチがもう僕の言葉に反応してくれない事を悟った時、
家の中なのに...雨が、降った。
どうにも雨は止みそうになく、ただただ、床にちっちゃな水溜まりが出来ていった...


やっぱり、雨は嫌いだ。
これから、この思いは変わらないだろう。


だけど...


雨がもたらした、僕にとっては大きな幸せ。
それだけは、感謝したいな。


僕はそう思う事が出来た。


そして...


やっぱりその日も、雨だった―――

             
              ―終―



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