第96期 #14

玩具

 栄転に次ぐ栄転がもたらしたのは、堕落だった。

「おじちゃんは何を売ってる人?」

 旧時代の文明に頼って生き残っているような孤島。その砂浜で俺は無意味に風呂敷を広げていた。
 素晴らしい兵器を国家や組織に売り払っていたのが嘘のようだ。上は何を思って俺をこんな場所に寄越したのか。これじゃクビと変わらん。自暴自棄になるのが当然だ。

「ねぇ、おじちゃんは何を売ってるの?」

 ガキとボケ老人は同じことしか言わないってか。
 あぁ、海の向こうのドンパチが恋しい。

「聞いてる?」

 うるせぇガキだな。平和面しやがって。
 向こうのガキは四則算よりも先に殺しを覚えるんだぞ。お前の年頃じゃ大量殺戮はザラだ。なのにお前は何だよ、死んだ目で裸同然のボロ服着やがって。二十三世紀に生きてこの様か。

「具合悪いの?」
「気分が悪いだけだ」

 仕方なく応えるとガキは表情を明るくした。
 もう、全てがどうでもよくなった。

「ねぇ、おじちゃんは何を売ってる人?」
「夢をかなえる道具さ」
「えっ、本当?」

 咄嗟に『夢をかなえる』と口にした自分のセンスに呆れた。
 俺は風呂敷の上に並べていたものから一番強力なものを手に取る。

「これがそうなの?」

 震えるガキの手を取り、しっかりと握らせる。

「海の向こうに向けろ」
「こう?」

 偶然取った構えは、なかなか様になっていた。

「そしたら、この部分を指でカチッとするんだ」
「うん」

 引金が引かれた瞬間、ぱすっという音が響き、水平線の向こうで巨大な爆発が巻き起こる。
 天地が揺れ、膨大な閃光で目が眩む。まるでもう一つ太陽ができたみたいだ。
 俺はかすかに見えるガキの呆けた表情と圧倒的な暴力のコントラストに腹を抱えて笑っていた。初めて『引金を引いた者』がこんなガキになったのがたまらなくおかしい。
 ざまぁみろ。
 このまま泣き崩れるガキと一緒に死ぬのも悪くないな。
 そう思い、ガキから玩具を奪おうとする。 
 が。

「……夢が、かなった」

 引金をカチリ。
 いい笑顔。
 閃光爆発。

「夢がかなった!」

 カチリカチリカチリカチリ。
 巨大な爆発が幾つも水平線の向こうで起きる。
 その度に轟音と閃光で全てが失われていく。

 カチリカチリカチリカチリ。
 

 開いた口が塞がらない。
 それはまるで物語のような非現実感。
 音と光で感覚が無くなっていく。


 よくわからない感動と後悔を覚えながら俺は少女に土下座をした。
 しなければならない気がした。  



Copyright © 2010 彼岸堂 / 編集: 短編