第95期 #21
「ただいまぁ」
栄太は台所、母親にまっすぐ会いに向かった。
そして、封筒を渡した。さすがに無理だろうと思いながら……。
封筒の中身を一目見ると
「あなたなにをいってるの夏休みはお勉強でしょ。夏期講習休むつもりなの?」
あっさり、否決されてしまった。ゴルフのコースレッスンと、イベント保険の申込書はポンとテーブルの上に落とされてしまった。
「うん、そうだよね。無理だよね。いや、その、一応誘われたから、ハイって返事しちゃったら、これ渡されて、一万五千エンだなんて知らなかったんだよ」
それでも、平気な顔してる。ぐっと大人になったようだ。
「そうよ、ウチにそんなにお金があると思ってるの、夏休みはお勉強に集中して頂戴」
母親がめずらしいものを見るような顔で栄太を見てもう一度、
「だめよ、勉強しなさい」と、言った。
ところが、一転、逆転して栄太はコースデビューすることになるのだ。それというのも、母親がもう一度考え直すのだが、潔く諦めた我が子のことを父親に言って見たくなったのが、話の展開を招いたのだ。
母親としては誰かに自慢したくなるような、栄太の変化だった。あまり勉強ができるわけでもないのはわかっていた。だめでもしょうがない、ちょっとでも勉強してくれるならと、考えていたのに、なにか、子供からおとなになっていくのを感じるような嬉しさに、いいつのる相手としては父親ぐらいしかいない。
そうしたら、父親の言うには勉強は大事だが、いま、ゴルフは飛び出せるチャンスのときなのだという。それというのも、
いま、学生アマチュアはせいぜい2回ほどのトーナメントしか出られないのだ。2週間までしか学校を休めなくなったのだ。
だから、予選から一週間かかる試合なら、二回しか参戦できないのと言うだ。
学校を放り出して年中試合をしながら強くなる道が閉ざされた。
誰にでも、ちょっと余裕があるなら、学生チャンピオンになれるチャンスのときなのだ。というのが父親の意見だった。
栄太にとって両親の仲良いところを大いに感謝。コースデビューを果たせることになる。
そのときも、栄太は、
「わぁ、ほんとに? ありがとう」って言ったのだが嬉しそうなのだが、落ち着いていて。母親としては物足りないくらいだった。
広いグリーンに向かって、歩いていく。さそってくれたゴルフ場のおじさんは、元プロ滝音重雄、近所の主婦甲斐小雪、シングル屋福次郎、高校二年横林栄太の4人、スタートである。