第94期 #25

運命の分岐とその後

 人生には幾つか重要な分岐が存在しているらしい。
 その時選んだ行動や言葉、ものの考え方なんかはその後の自分自身の未来に大きな影響を残すものだそうだ。
 そんな大事なものであるにも関わらずその分岐自体は大体の場合大した物ではない。
 例えば『今朝は余裕があるからコンビニでも寄っていくか、それとも真直ぐ通勤するか』とかそんなものだ。この場合コンビニに寄っていくと強盗に遭ったりしたり、逆に直行すると交通事故に遭ったりとかする。
 正直完全に運不運の問題にしか思えないがそういった事態になったとき当人は考えるはずだ。あの時別の選択をしていれば、と。
 だが人生はゲームじゃない。
 前の選択肢に戻るとかセーブ・ロードなんて甘いことは出来ないのだ。
 ゆえに本当に思い通りの自分にとって良い人生を送りたいのならば、日々のあらゆる出来事に対して真剣に悩み考え行動しなければならない。
 そうでなければ必ずいつか後悔することになるのだ。

 そして俺は今その後悔の只中にいた。
 目の前には【完売】の二文字が壮絶な自己主張をしている張り紙。
 そしてその下は何も置かれていない──いやおそらくは俺が欲しかったものが置かれていたであろう商品棚がある。
 こうなる事はわかっていた。
 今回販売される商品は限定生産品で出荷本数が非常に少ないにも関わらず、何を思ったかメーカーの方で発売前の予約を禁止して当日の販売に全てを回してしまっていた。
 だからほんの少しでも販売店舗にたどり着くのが遅くなれば入手不可能な事態になることはわかっていたのだ。
 でも仕方ないだろう。誰だって、道端に五百円硬貨が落ちていたら拾ってしまうじゃないか。拾わずに通り過ぎるなんて選択をする奴は普通いないはずだ。
 そう仕方ない。
 それに、俺はそこから数百メートルも戻ってちゃんと駐在の兄ちゃんに落し物として預けてきたじゃないか。
 そうだ、俺は人として正しいことをしたのだ。
 だから何も後悔することなんて無い。そう自分に強く言い聞かせ硬く右拳を握った。
 が、何故か涙は止まってはくれなかった



Copyright © 2010 篤間仁 / 編集: 短編