第94期 #13
ムハハ。我ながら笑える。ここ近年の小生は彼女という存在以前に女の匂いが一切しない、原始人並みの体臭を漂わせている。何故彼女ができないのか、何故女を作る気になれないのか、そもそも女とは小生にとって必要な物なのか、改めて考える機会を今回得たのだが、考えた所で元々興味のない物には例えキーボードの上にコーヒーをこぼしたとしても微動だにしない肝の据わった小生にとって、今さら女なんてどうでもいい事なのだ。そんな折、三年前に片思いを押し付けた結果音信不通となった女から連絡があった。なにを今さら。小生は一度切れた縁など修復しようとも思わない、したくもないという強い志をもって頑なに自分の殻を三日間だけ守った。運命などという言葉を使いたくないが、三日後に返信したメールは返ってくることはなかった。小生のタイミングが悪かったかもしれないが、期待させる様なことをする女も悪い、と自分に言い聞かせてはいるのだが一カ月経った今も女々しく返信を待ちわびている小生の心は、波平の一本毛のように波打ち今にもサラッと飛んで行きそうなくらい不安定である。デジャヴの様な失恋により悶々とした日々を過ごす程、三九になる小生は青くない。夜桜舞い散る月の下、小生はフェラーリと名付けた自転車で颯爽と風を切る。淡い恋を探求しろという天使の囁きと帰宅した所を強引に行けという悪魔の囁きには耳も貸さず、小生は幼き日トイレを我慢できず公衆の面前で便を漏らしてしまったことを思い返しては、記憶をすり替えようと必死に妄想していた。気がつけば女の家の前に来ていた。ここでばったり再会してしまっては、こっそり夜道で尾行しようと履いてきた新品のスニーカーや黒めのスウェット、眼深帽子、マスクなどが意味をなさない。我ながら完璧だと三十分経った時に目の前にパトカーが止まった時まで思っていた。パトカーで連行される路中、女が帰路についていた。会わなくてよかったという安堵感と出来るとこなら会って話したい、そして匂いを嗅ぎたいという衝動にかられ、車内で号泣してしまった小生が、警察官の目にはひどく反省していると映ったようで、「実家に寄らせてくれ」という小生の懇願に快く承諾してくれた。小生にとってはまったく知らない家の前で停めてもらい、すぐにとんずれた。家に帰って愛猫に嫌がられながらも、癒してもらいながら小生は思ったのである。
次はロングコート一枚で行こう、と。