第94期 #1

シンクロ

 雨上がりの午後、私は歩いていた。
 見慣れた下校途中の風景。いつもと同じ。繰り返される日々の中、何も変わらない。
 隣には、毎度お馴染みの友子がいる。
 私と友子は親しい仲で、一緒に下校するのは日課だった。けれど心では、彼女のことを良く思っていなかった。
 毎日歩く道は見慣れていたはずなのに、ふといつの間にか異質に映る。
 ――私は迷子だった。何も解らないまま、ただ何となくレールの上を歩いてる。
 もし解ったとしても、道から外れて自由に進む勇気はあるのかな。
 そんなことを考えながら地面を眺める。雨粒が集まった水溜まりに光が注がれて、キラキラと反射していた。

「ねえねえ」
「なに」鬱陶しい、と私は思った。
「ちょっとこれ見てよ、ねえ」

 仕方なく友子の要求に応えてそちらへ視線を向ける。

「なによ」

 友子の顔を見ると、彼女は自分の目を指差していた。

「ほら見て。見てよ」
「だからなんなのよ」
「ねえ、両目が同じ動きしてるでしょ」

 確かに両方の目が同じ動きをしていた。それがなんだというのか。
 尚も友子はまくし立てる。

「ほら、ほら、同じ動きしてるでしょ。全く同じ動き。ほら、同じように動く」

 友子は、両の目を上下左右に繰り返し動かしていた。グルグルと回してみたり、縦横無尽に操っている。
 ――ハッキリ言って、気持ち悪い。

「はぁ。それがどうかしたの」
「だって、スゴいじゃん! 同じに動くんだよ? スゴいよコレ!」

 呆れた……。
 私は呆れて物が言えなくなった。

「あれ……。なんか怒った?」

 私は無視して答えなかった。くだらないことを言い出した彼女が悪いんだから。

「……怒ってるんだ。変なことわめいてごめん……」

 そのまましゅんとしてしまう友子。
 その時、友子の両目がバラバラに動き始めた。カメレオンの目と同じで、別々に細かなステップを刻む。
 余りに突然の出来事だったから、私は不覚にも驚いて飛び上がってしまった。

「あ! 由美も目! 両方とも同じになってる!」
「え?」

 ――どうやら私の両目も、彼女の様に同じ動きをしてるらしい。最初は気づかなかったけど、慣れたら自分でも段々解ってきた。
 ふーん。これがそうなんだ。バカらしいね。
 だけど何だか楽しくなったので、私は友子と一緒に大笑いした。
 笑いながら何となく空を見上げると、棚引く雲の隙間から虹色の光が見えた気がした。



Copyright © 2010 アンデッド / 編集: 短編