第93期 #4

貧と富の心の狭間で…

2015年、それは僕がまだ6歳だったころ。中華人民共和国でマグニチュード8.4の大地震が発生した。
国際防災戦略(ISDR)の発表では死者は11万8000人にも及ぶと発表した。
世界中から支援・救助部隊が中国に送り出された。もちろん、日本からも…。

生存者1名を救出!! 医療班はすぐに治療を開始!! そんな声が響いていた。
僕は、両親に連れられて廃墟と化した大国にいた。埃や塵が舞い、瓦礫だらけ
の土地で、ただ父親の仕事を眺めていたのだ。
あたりを見渡すと、僕より2つ3つ上ぐらいの少女がいた。ボロボロの姿で…。
僕は母親が中国人のため、日本語よりも中国語のほうが得意だった。
地震というものをほとんど理解してなかった僕は無邪気に少女に歩み寄り、話しかける。
「なんでそんなに悲しそうなの?」僕は言う。
「お母さんも、お父さんも…どこかに行っちゃった。」
「どうして?」僕は相手に構うことなく、質問を続ける。
すると彼女は泣きながら、答えた。「お‥カネがないから、おうちがないから…育てていけないって…。もう一緒に暮らせないって…。」
当時の僕はとんでもないことを言っていた。「おカネなら銀行行けばいっぱいあるよ〜。」
少女は、少し間をおいて言った。「銀行のは自分のおカネじゃないじゃない。」
僕は勘違いしていたのだ。銀行に行けばおカネがいっぱいあると、好きなだけ使えると…。
「そんなことないよ、だってママはいつも銀行に行っておカネを持ってくるよ。」
すると少女は大粒の涙を流しながら叫んだ。
「もうあっちに行って。」
あまりの声の大きさに、周りの人が一斉に振り向いた。
そこで僕は父に呼ばれ、もうテントに戻っておくように言われた。
僕は父に怒られ、少女に悪いことをしたと後悔した。
後で聞いたのだが、その少女の名前は江小芳といい、日本の医師の人が引き取ったのだそうだ。
僕は、瓦礫の下で中国人女性の顔を眺めながら、思い出していた。
ホントにあの時は申し訳なかったと。ごめんなさいと言いたかった。
あんなひどいことを言った僕を助けに来てくれて、ありがとうと言いたかった。人生なんてどうなるかわからない。お金なんて当てにならないって、金銭的富よりも、心の富が大切なんだと、この瞬間思った。ありがとう、気づかせてくれて。僕は、彼女の手を握りながら言った、「あの時はごめんね、小芳さん。」



Copyright © 2010 大荒 清統 / 編集: 短編