第93期 #2

あの娘のシューズ

 早朝、とある小学校にある下駄箱にて。

「おいっ!」
「何だよ」
「おまえ臭いぞ!」
「仕方ないだろう……うちの御主人様が、先週持ち帰るの忘れて洗ってもらえなかったんだから」
「その点、御主人様が女の子だといいもんだぜ」
「羨ましいな……それに、うちの御主人様は乱暴だからさ、ところどころ傷だらけで……」
「おまえ知ってるか? うちの御主人様は、おまえの御主人様のことが好きなんだぜ」
「それは驚いたな。こんな御主人様のどこがいいんだか……」
「考えてもみろよ。下駄箱の場所を決めるときに、こんなに近くになること自体がおかしいだろう」
「これって、出席番号順ではなかったの?」
「うちの御主人様が仕組んだみたいだぜ」
「学級委員だもんな……。やろうとすればできる立場だけれど、そんなことしないでさっさと告白しちゃえばいいのに」
「やっぱさ、女の子から告白ってなかなか勇気がいるもんだぜ」
「いきなり『好きです』って言われてもなぁ……まずは、話すきっかけがなくっちゃ! おっと、そろそろ登校してくる時間だ」
「オレにいい考えがある。まあ、見とけよ」
「何する気なんだよ。あっ!」

 下駄箱の前には、一足だけの上履きが落ちている。そこへ登校してきた男の子は、上履きを拾い上げると、すぐに女の子も登校してきた。
「それ、アタシの」
「ここに落ちてたぜ」
「ありがと」
「今日も……暑いな」
「うん。教室、冷房ついてるかな。早く、行こ」
 そして、二人は駆け出した。



Copyright © 2010 中崎 信幸 / 編集: 短編