第93期 #1

Dの呼応

 これは以前に僕が経験した話です。
 僕の友人にいわゆるオカルトマニア、その方面に強いコネのある人物がいました。その友人が悪霊だか悪魔だか何だかの声が入った不気味なテープを、独自のルートで入手したと言ってきたんです。僕には霊感とかもなかったので胡散臭い話だと思ったんですが、同時になぜか興味も湧きました。それで友人からそのテープを借りてみることにしたんです。今にして思えば、自身でそういった類の真偽を確かめたかったのかもしれません。友人は「お前を信用してる」と念を押してから、テープを貸してくれました。それでマンションの自室に帰宅後、テープを聴いてみることにしました。時代を感じさせる古めかしいカセットテープでした。所々に痛みがありましたが、再生するには問題なかったです。ラベルにはアルファベットで『D』と書き殴ってありました。どういう意味なんだろうと思いつつ、余り気にしませんでした。少し怖いので、テレビを付けっぱなしにしながらテープを再生。しばらく聴いてました。けどそれが、何も聴こえてこない。おかしいな、友人がテープを間違えたのかな、と思いました。その時、急に隣人が壁をバンバン叩いてきたんです。お隣りには、車椅子に乗った足の悪いお婆さんが住んでました。下からの目線ながら、常に僕を睨んでくるような人でした。音楽を聴いてると壁を叩かれることもありましたね。けどその時は、テレビの音量も大きくなかったんです。しつこく叩いてくるから、頭にきてこっちも壁を叩いてやりましたよ。すると、静かになりました。テープの方はというと、結局何も入ってませんでした。
 翌日の帰宅時。マンション入口付近が何やら騒がしかったので、居合わせた管理人さんに何事かと聞いてみました。管理人さんの話によると、お隣りに住んでいたあのお婆さんが、昨日亡くなったとのことでした。昨日が昨日だったので、人事にも思えず驚きました。しかも詳しく聞くと、どうやら自殺だったということです。天井から布か何かを垂らしての首吊り自殺らしい、という話でした。けどその話を聞いて僕はなぜか違和感を覚えました。
 後日、改めて友人にテープの件を聞いてみました。僕が受け取ったテープは確かに音声が入った本物で間違いない、と言ってました。その後、ふとなぜか気づいたんです。お婆さんは足が悪くて車椅子に乗ってたのに、天井から首を吊るなんてこと、出来るのかなって。



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