第93期 #19
「うるせぇよ、あっちいけよ、酔っ払い」
栄太かなりきつくいうが酔ってるやつには通じない。
「まあ、そういうな。関東選手権の青芝大学ゴルフ部だぞオレは」
「なんだよ? それ??」
タツヤは肩書きに弱いなぁと、栄太は言葉を呑み込んだ。
「まあ、ゴルフの甲子園だよ」
「なんだよ、寮は高校なんて行ってないぞ」
酔っ払いは言った。
「そうだったな」
「だろ! 体力も技術もおとなに負けてないんだよ」
「そうだったなぁ……」
しぼりだすようなこえでそういうと、酔っ払いは栄太のほうに向かっていった。
「ゴルフで大事なのは、楽しむことだぞ、楽しんでるか?」
栄太はボールを打つのが楽しかった。バッティングセンターの飛んでくるボールを打つのとはちがう。
バチっとハジケルように飛び出すゴルフボールの軌跡は爽快な飛行機雲のような無重力の陶酔感がある。
ショットを思い出すとすこし気持ちが軽くなった。タツヤはまだ知らないだろう。バットしか振ったことがないタツヤは。バチッとティーアップして石のような硬いものを打つ感触を。
この酔っ払いは、どんなゴルフを知っているのだろうか? 楽しんでいると……いってるが。そうおもってみると、酔眼もどこか青い芝生を見ているようにも感じられる。
「どうせ趣味のゴルフだろ。プロのとは違うだろうよ」
タツヤが言った。
「まあ、そういうな……天下の青芝大学ゴルフ部だゴルフを知ってるなら青芝知らないことはないだろう」
「しらないよ」タツヤが言った
「なんだ。知らないのか? 青芝大学を、」
「だから、石川寮は十五歳だ。一億円んだぞ」
タツヤが笑う。まるでタツヤが寮になったみたいだと栄太二人を観察していた。
「ゴルフは受け取ってナンボだ与えるものじゃぁないんだ」
また判らないことを言った。
「偉そうなこといってるよ」
タツヤがバカにした声をつくった。
「そうだな、なんか与えようとしているなぁ……」
そういう、酔っ払いはまた、どこか広く見ているような目をしていた。
「つまらないことをいうのはやめておこう」
なんとなく話を聞きたくなるのものだ。そんなら始めから余計なことを言わなければいいのに。