第93期 #14

星果録『真愛』の項

 ――何故また刀を握った、か。
 それを聞かれるとちょいと答え辛い。
 何? それじゃ記録にならん?
 そいつはすまん。まぁあれだ。俺も人の子だったんだよ。


 ――新暦百二十三年、魔人『A翁』捕縛。太陽系全土が激震した。
 『静かの海条約』に登録されている『A翁』は所謂超A級の超能力者であり、人間の老人だった。
 刀一本で宇宙を駆る彼は、太古の侍と呼ぶにはあまりにも常軌を逸脱していた。
 人類は彼と同じカテゴライズをされるのを拒否した。
 詰まる所、彼は孤独だったのだ。



 ――おじい様は悪くありません。
 ただ私のために、ああしただけです。
 おじい様は自分の欲望で殺戮を行ったわけではないのです。
 私を守ってくれただけです。
 貴方達がおじい様のことをどう書こうとも、私がおじい様の真の姿を覚え続けます。


 ――新暦百十三年、魔人『B少女』誕生。太陽系合同政府はその力を秘匿。明らかであったことは、人間であり人間でなく、結果彼女も『A翁』と同様の理由で孤独が決定付けられていたことのみ。


 ならば二人が引かれ合ったのも必然である。
 しかしながら人々は彼と彼女がどのようにして祖父となり孫娘となったかを知らない。
 そもそも血縁が本当に『ない』のかどうかも知らないのだ。
 二人にとって過程はどうでもいい。家族として生きたその事実だけあればいいのだ。


「おじい様、また大福を食べたの?」
「うめぇからなぁ。これは」
「ダメよおじい様。健康に悪いわ」
「もしぶっ倒れたらお前が世話してくれ」
「おじい様は甘えん坊ねぇ」


 それはとても穏やかな日々だったと聞く。



 ――『B少女』は十歳の頃に兵器として召集された。我々に対抗する力が彼女にはあったらしい。『A翁』が各星で暴れだしたのは丁度その頃か。




「雑な記録だな。それであんた達はわかるのか」
 
 わかる。ヒトの脳は解析済みだ。お前達が一を言う前に我々は十を知ることができる。

「ほう」
 
 さて、『ヒト』はもうお前達だけだ。何を望む。

「安らかな時間を少しだけくれ。そして二人一緒に殺せ」
 
 ……孫娘もお前と同じことを言っていた。

「そうかい」


 互いの名も、血も、その望むものも知らない個体がこうして埋め合うのか。
 『ヒト』とは、非常に興味深い。
 彼等を研究することが宇宙を包む孤独を打ち払う答えに繋がるのかもしれない。
 
 ――本時の記録、ここに終了する。
 



「あぁ、早くあのちっこい手を握りてぇなぁ」 



Copyright © 2010 彼岸堂 / 編集: 短編