第92期 #1
修行を終えた11が局に戻ると、局長Nから新たな任務が言い渡された。
「Nは男使いが荒い」資料に目をやり皮肉を零す。
「竹崎健という企業スパイから機密文書の奪還が今回の任務よ」
「簡単だ」
「頼むわね11」
11はウインクを放ち局長室を後にした。
廊下で僚友のテンが11に声をかけてきた。
「戻って早々任務かい」
「まあね」
「体には気をつける事だ」
馬糞みたいな奴。11は背を向けたまま手を振った。
11はベガスへ飛ぶ。カジノでマダム・マリと密通を交わした後、竹崎と会う為英国に戻る。
バイヤーに化けた11は高級バーで標的と対面した。
「Mr竹崎? ジョーンズ・ボイトです」
「お待ちしてましたよ11」
「?」
11の周りをムキムキ男達が取り囲んだ。
「これですね」竹崎が機密文書の巻物を見せびらかす。
「金は偉大だ。テン」
「テンだと?」
男達の間をかき分け半裸のテンが現れた。
「やぁ11。今日が君の命日だ」
「貴様!」
罠に嵌められた11。彼の得物であるR爺謹製の傘も入店時店員に渡していた。
「やっておしまい」
竹崎の声を合図に男達が襲いかかる。だがその瞬間、
「ファーー」
11が奇声をあげると無数の銃声が響き渡った。背中から引っ張り出した傘が彼の前で開き煙を吹いている。
「バカな!」叫ぶテン。背後から11の傘を取り出し彼に向けた。
そして傘を開く。
「残念。それは仕込み刀だ。こちらも弾切れだが」
言い終わった11が閉じた傘を投擲、テンの額に突き刺さった。
「己……私が直々にやってやる」竹崎が脇に置いてあった刀を抜く。「葉幻流皆伝者である私がな!」
刹那。二人のシルエットが交錯した。
「まさか……葉幻流秘術の隠し腕だと」
呻いたのは竹崎だった。
隠し腕とは。大便を固形化、操る事で第三の手とする秘術。実は11のズボンは尻にチャックも付いている。
隠し腕には別の傘が握られていた。
「葉幻流なら三日間の修行でマスターしたよ」
傘を開くと同時に竹崎は倒れ込み、爆散した。
*
「回収した後11は行方を眩ましたのね」Nが溜息をつく。
「マダムと休暇を取ると。心は女王陛下の物だが自分の傘は全ての女の物、それが奴の信条ですから」
Rがにこやかに報告した。
その頃、バミューダトライアングル沖に停泊するヨットでは。
「いやぁん、ジョーンズの傘すごぉい」
「よかろうもん。よかろうもん」