第91期 #11

ワカレサセヤ

「愛してるわ。」

「俺もだよ。」

「昨日ちゃんと話したの。ようやく納得してくれたわ。」

「そう。大丈夫だった?」

「ええ。私も落ち着いて話せたし。あの人もやっと諦めてくれたみたい。」

「そうか。良かった。」




そう、良かった。これでやっと任務完了だ。同意書に判子を押すまでは、まだ気が抜けないが、今までの経験から、ここまでくればあとは時間の問題だ。気持ちは完全に俺に向いてるからな。




「別れさせ屋」という職業については、倫理的な問題から、様々なバッシングをくらっている。俺だってたまにそう思うことはある。人を騙して金を貰うわけだからな。


でも、需要があるから供給するビジネスが成り立つ。皆勝手な事を言うが、所詮自分では解決出来ない輩ばかりだ。自分のケツも自分で拭けないんだな。そして、面白いことに、依頼者の多くが、こういった倫理の問題を取り上げるような奴らばかりだ。


今回の依頼主の弁護士も、そうだ。自分で勝手に好きにさせておいて、自分じゃ別れられないんだから世話はない。まぁ、「別れたくない」なんて言い張った演技力だけは認めるが。


まぁ、そんな事はどうでも良い。別れさせて、金を貰う。俺の仕事はそれだけだ。




「ねぇ、何考えてるの?」


「これからやっと二人の生活が始まると思ってさ。最初に堂々と、どこに行こうかと思ってたんだよ。」


「そうね。でもまだ気が早いわ。次はあなたの番よ。」


「え?」


「私、うまく別れるために探偵を頼んだのよ。そのついでにあなたの事も調べさせてもらったわ。」



「なるほどね。。。」





「でも、大丈夫よ、安心して。あなたの彼女はもうすぐ別れるって言い出すわ。」


「今頃、『別れさせ屋』が最後の説得をしてるところだから。」



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