第90期 #4
彼はクラスに一人くらい居る、そんな感じの人だった。
僕の教科書の偉人に描く落書きが妙に上手くて、誰よりも早くお弁当を食べ終わってて。
特にコレといった印象もなくて、本当に、それくらい存在感のない人だった。
のに、
「〜〜くんは、ご家庭の事情により転校することになりました。」
彼のいない席が寂しい、
落書きのない綺麗な教科書が寂しい、
お弁当を一番に食べ終わり、早く遊びに行こうと言う声がないのが寂しい、
彼が、僕に何も言わずに転校してしまったのが、酷く寂しくて悲しい。
ただのクラスメイトだと思っていたくせに、
「なんで僕に何も言わず転校したんだよ。」
なんて昔からの親友のような愚痴をこぼす。
彼が僕にとってどれだけ存在感の大きい人だったかなんて、今更気づいてももう遅かった。
彼はいない、もういない。
僕に何も言わずに、この地を去った。
存在感のない僕と彼。
それでもお互いの存在だけはしっかりと感じていると思っていたのに。
意識していたのは僕だけだったなんて、
酷い裏切りを受けた気分になった。
僕は本当にヤな奴だ。