第88期 #15

バイオTV 第79回『ナメてはいけない』

 ではナメクジさん、いくつか質問させていただきます。

 まず、この番組に出ようと思ったきっかけは。
「えーと、こんなこと言っちゃうのもなんですけど、ギャラがよかったからです。スタッフに頼んで、ギャラを全部餌の糸ミミズ代に回してもらったんですが、これまたすごい量になりまして。当分食糧に困るなんてことは無さそうです」

 あなたから見て、人間界はどのような感じですか?
「そうですね、やけに……差別意識って言うんですか? それが強いなあと」
 ほう、具体的には。
「人種差別ですかね、あとは男女差別。我々は種族差別なんてしませんし、そもそも男女の概念はありませんので、私からしたらそういう光景は不思議に見えて仕方ないですね」

 人間界とナメクジ界との間での一番の違いはなんでしょうか?
「いい質問ですね。一番の違いは、我々はたとえどんなことがあろうと、人間とは違って決して涙を流せないというところにあります」
 と、言いますと?
「理由は単純で、涙を流してしまったら我々は死んでしまうからです。涙ってしょっぱいでしょう? ナメクジ界では塩分は禁忌の象徴となっていますので、涙を誘発する危険性のあるものもタブーとなっています。例えば、勝負事、殺ナメ……ああ、ここだと殺人と言ったほうがいいかもしれませんね。あとは音楽、小説……映画もです。嬉し涙や悔し涙、悲しみによる涙、さらには感動の涙。これらの涙を流すときに一緒に湧く感情は、味わえるとしてもたった一度だけなんですよ。そして、人生において最初で最後となるその感情は、どれも我々が普通に生きているうちには決して味わえないものと言われています」
 成る程、興味深い話ですね。
「ええ、だからそれを早くに求めるあまり、若くして命を絶ってしまう者が増えていまして。今でも長老たちは必死になって禁忌の根絶に努めているところなんですよ。ぶっちゃけた話、私もその若者に含まれるのでしょうが」
 おや、そんなこと言ってもいいんですか?
「はは、あくまでも天寿を全うしてから最後の最後にとは決めていますので。最高に感動できる映画等がありましたらまた教えてください。人生の最後に見てみますよ」

 それでは、時間になりました。最後に一言お願いします。
「TVの前の皆さん、次はキャベツ畑でお会いしましょう」
 ありがとうございました。

 次回は『名前負け』。ゲストにエンマコオロギさんを迎えてお送りします。



Copyright © 2010 謙悟 / 編集: 短編