第87期 #23
足跡が、
おれをつけてくる。
おれの足跡が、
おれをつけてくる。
さも美しそうに
ふる、
雪。
なにもかもが、
はじめから
そんなものなどなかったかのように――
雪、
の上に
雪。雪
の
上に
雪、
が。
雪が、
さも美しそうに、
ふる。
おれの足跡が
きえていく。
はじめから、
そんなものなどなかったかのように――
はじめから、
そんなものなど
なかったかのように――
死んだ魂、
のように
ふる、
雪。
美しく、
白く
つもる、
骸。
死、
の上に
死が。死
の
上に、
死が。
死の膜
が、
地の口
を
ふさぐ。
赤子の口に
濡れそぼった白いハンカチを
おく、
ように。
おれの、
死んだ赤子。
おれの、
白い、
小さな
赤子。
雪
のように、
白い
赤子。
おれの、
死んだ
赤子。
白い、
死。
雪
のように
白い、
死。
死
のように
白い、
おれの
赤子。
さも美しそうに
ふる、
死。
さも美しそうに
ふる、
死。
なにもかもが、
はじめから、
そんなものなど、
なかったかのように――
おれの足跡が、
足跡が
きえていく。
おれの跡を
つけてくる。
Snow,Dies,(1947)
あとがき
2008年米国で出版されたThomas Leeの遺稿集『Snow,Dies,』(ここに収録されている詩文はすべて、28冊の手帳に雑事のメモと並んで書き込まれていたものだという)から、表題作を訳出した。
作者のトーマス・リー(1917-1971)は、ミネソタ州ミネアポリスに生まれ、ミネソタ大学在学中に出征、42年に戦争から戻ると父親の紹介で地元郵便局に勤め始め、通勤中のバス車内で起きた発砲事件で亡くなるその日まで一日も欠勤することがなかった。また、週末の細やかなギャンブルも生涯欠かさなかった。44年に妻レイチェルと結婚。三児を儲けている(第一子は流産している)。『Snow,Dies,』の出版にも携わった次女で詩人のキャサリン・ホワイトによれば、父トーマス・リーは「いつもにこにこしてましたね。でも冗談を云うのを見たことがないんです」という人物であったようだ。出征の一ヶ月前に自費出版した詩集『My Words』(1939)が、生前唯一の刊行物である。
最後に、私が好きな『家』という題の短い一編を紹介して筆をおくことにする。
音叉を鳴らす子どもたち。
二〇〇九年十二月八日 訳 者