第86期 #7
世の如何な動きも見通す眼力を持つ仏眼仏母が二千億光年彼方から地球をぼおぉと見遣っていると、何の変哲も無い西風にふわり舞った砂の一粒に驚き胡坐を浮かした。痺れた脚を引き摺って駆け込んだ先は、神仏界広しと言えど弟子を想う心絶類抜群と謳われた地蔵菩薩の家。ちょ、宋元の骨が粒になって地球に落ちてまっせ、と息も絶え々々言った仏眼仏母の胸倉を掴んで、そらどういうことやねんキリキリ説明せんかいボケェ、と地蔵菩薩は詰め寄った。宋元とは地蔵菩薩が大層目をかけておった人間の弟子であったが、何の因果かエジプトの女神ヘケトに誑かされてイイ仲になってしまった。で、御仏へのお務めもほったらかして睦言を交わしてる所、事ある毎ヘケトに言い寄っていた闘いの神モントゥに見つかり、われひとの女に手ェ出してただですむと思とんちゃうやろなカスゥ、てことで神人呪うこと超軼絶塵と評判の邪神アポピスの手で生きながらにしてあの世送り、地獄のジャッカルに全身を齧られ続ける破目となった。何とか救済を目論んだ地蔵菩薩であったが、エジプトの罪はエジプトの法で裁くんが道理でっせ、と言われてはグゥの音も出んかった。韋駄天に取りに行って貰お、ということで馳せ参じた神仏最速の男。地球て遠いわぁ参るわぁ言いながらも気炎万丈義気凛然、いざクラウチングと屈んだ瞬間、あ、あかんわ。何があかんのん。何があかんて、俺が走ってった風圧であなな砂粒どっかへ飛んでってまうで。そこで仏眼仏母が膝を打って、阿弥陀如来はんに時空間を歪めてもろて引き寄せてもろたら。と今度は地蔵菩薩が膝を打ち、なるほど仏眼仏母も眼以外使うことがあるもんやなと感心し、早速時間空間の七擒七縦自在な阿弥陀如来に二千億光年の時空をすぱぁと切り取ってくれるようお願いした。誰さんも簡単に言うてくれまっけどなぁとブツクサ言い々々、阿弥陀如来は二千億光年の時空間をすぱぁと切り取ってみせ、地蔵菩薩は宋元の骨粒を掴むことができた。地蔵菩薩は右の鼻穴から糞を穿り出し、骨粒を核にぐるりと団子をつくるとたちまち表面を波打たせてむくむくと形を成し、宋元となった。掌の上で何事かと吃驚仰天茫然自失の宗元に地蔵菩薩が心配しとったんやでと言うに応じた宋元の話は、ざっくりこんな感じであった。いやぁあの後モントゥはんにはすぐに許してもろたんでっけど、戻った途端、なんやセルシオ言うのん、轢かれてもて、わやですわ。