第86期 #27

ヒデとマサの話

中学時、人柄の良さと適度な不良っぽさで学年性別を問わず人気があったヒデに対し、マサの方は、スクールカーストの下層付近で毎日もがき、燻ぶっていた。
二人は初めからこうだったわけではない。
ヒデとマサはいつも一緒だったのだ。
一緒に幼稚園に通い、一緒に小学校に上がり、一緒にアホなことをして、一緒に笑っているうちに中学生になったのである。
しかしそのバランスは、二人が思春期を迎えたころから少しずつ変化していった。
中学に上がるとヒデは、持ち前の要領の良さで次々と友人を増やしていき、なかなかクラスに馴染めずにいたマサが気付いた頃には、彼は学年の“リーダー”になっていた。
なにをもってリーダーなのか。
その定義はマサにも分からなかったが、いつもたくさんの友人達に囲まれている彼の姿から、マサは、ヒデが自分より高等な存在になったのだなと思った。

そこからのマサは卑屈だった。
ヒデと廊下ですれ違っても、会話はおろか目も合わせなくなり、遠くでヒデが知らない誰かと笑い合う声が聞こえるだけで、腹の中がぬらぬらした。
一体自分は何がしたいのか。
休み時間、マサは机に突っ伏し、鬱屈していた。
しかし
自分とヒデとの繋がりは、昨日今日現れた奴らなんかには絶対に越えられない。
それだけを信じることで、マサはなんとか正気を保っていることができた。
そして、正気を保っていれられなくなったのが、それから一年後のことだった。
マサは女子の噂話から、とうとうヒデに彼女ができたことを知ったのである。
マサはもはや無表情だった。
無表情で廊下に飛び出し、ヒデを見つけるやいなや、その顔面に全体重を乗せた拳を見舞ったのである。
それが、二人が中学二年の時の夏であった


「だってそりゃ、女は反則だと思うだろ。女はキスやセックスができるんだぜ。女というだけで。反則だろ。そりゃ、噂は結局デマだったけど」
と、マサはそこまで話したところで、横で蜜柑を剥いているヒデが笑っているのに気づいた。
「キスもセックスもしてるじゃねーか」
確かに、今ではもうマサとヒデはキスもセックスもしているし、同棲生活も長い。
「そうだな」
マサはヒデから蜜柑を一房もらった。

狭い賃貸アパートに住む二人の中年。
二人の笑顔はとてもよく似ていた。



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