第86期 #20
笠原が言った事は確かに本当だった。それでも俺には、窮屈な手段となるのは目に見えていた。そんな事を考えていた時にちらりと目に入った雀が、何かの欠片を運んで来た。咥えきれず落としたらしい。獲物の肉片だ。俺はそれを拾って、軽く砂を払って食べた。
「アシカよりは、うまい。」
感想を聞き届けて去って行った雀は、父親だったのか、子供だったのか。そんな事を考えていた時に、笠原がやって来た。よぉ、と軽く手を上げて、俺の横に座った。
「考えてくれたか。」
「未だだ。」
「早くしてくれよ、あまり寝かせておく話じゃあない。」
「分かっているさ。」
さっきの肉片が奥歯に挟まって、いらいらする。
「昼飯でも食いに行くか。」
「いいや、俺はもう済ませた。」
「またお前は、葉っぱばかり食っているんだろう。」
「そんな事ないさ。」
笠原はそのまま去って行った。
俺は笠原に何も利益を感じなくなっている事に気付いた。寧ろ削られた時間や、馴れ馴れしい声が俺を責めている気がした。
「約束を切ろう…。」
昔、師匠に良い言葉を教えて貰った気がする。しかし、覚えていない。爪楊枝が欲しい。俺は正確さより、現実の方が気になっていた。現実なのか、正確さなのか分からないものが、俺を更にいら立たせていた。
だから俺は、拳銃一銚携えてこの町を去った。見知らぬ町を歩いていて、俺は翼を得た気がした。体にずっしりとした重さと、何にも干渉されない解放感があった。重さは俺に「どいて」と訴えたが、それすらも清々しかった。もう、捨てるものすらないんだ。胃も、咽も、周囲も、俺に対して初めて閉塞的になった。もはや雀が飛んでも、それは俺の現在の事実じゃあなくなったのだ。
空を臨める場所で、ドシンと頭に弾を撃ち込んだ。俺は、自然の必至にも、人の煩わしさにも、レントゲンの影にも惑わされず、現実なのか、正確さなのか分からないものから逃げ切ったのだ。
おめでとう自分。既に俺すらともおさらば。