第86期 #13

カマンベイベー

朝登校すると校門で生徒指導の体育教師椿原に止められた。
「校章は? 」
クリーニングから帰ってきた学ランを慌てて着たのでたまたま校章は忘れていたのだ。椿原は竹刀で僕の尻を軽く叩いた。その様子を好きな女子に見られた。笑われてしまった。

「キミ! ちょっと待ちなさい! 」
翌朝登校すると校門で椿原が真っ青になって走ってきた。
「その格好はなんだ! 」
僕はすかさず答えた。
「校則には『男女共に制服を着用』としか書いてません」
「しかし……」
椿原は目をむいた。
「キミ、それはセーラー服じゃないか! 」
そのまま僕は指導室に連れて行かれた。

「道徳的に問題がある! 男子が女子の格好をするなど人間的欠陥だ! 」
椿原が叫んで竹刀を振り回す。
「今お母さんを呼んだからな! 」
僕はあえて黙っていた。
「どこよー指導室はー」
けたたましい声がしてドアが開く。
「博ちゃん! 」
ママが叫んで走り、僕に抱きついた。椿原は唖然としていた。ママはピンクのミニスカートに網タイツにヒールといういでたちだ。しかもお店の女の子達を引き連れている。
「あの……」
椿原が遠慮がちに言った。
「お父様ですか? 」
「やーネェ見た目は男でも中身は女ですゥ」
僕のママはパパなのだ。後ろに引き連れている女の子達にも、付くべき物は付いている。
「先生さっきのことママたちに言えますか」
僕は口を開いた。
「道徳的に問題がある! 男子が女子の格好をするなど人間的欠陥だ! 」
椿原の口調を真似る。
「何ですってェ!? 」
「きいいい!! 許せないわ!! 」
「袋ダタキよ!! 」
「タマ袋ダタキよ!! 」
女の子達が叫んで椿原に飛び掛った。椿原は悲鳴を上げて逃げ回る。女の子達が髪を振り乱し、捕まえた椿原の唇を奪う。髭をこすりつける。触ってはいけないところを掴む。あっという間に阿鼻叫喚の騒ぎだ。
「おやめなさい!! 」
ママの野太い声が響く。
「あんたたち、お里が知れてよ」
女の子達がフン、と鼻息を漏らす。
「今日のところは勘弁したりゃあ」
「今度博ちゃんに目ェつけてみい」
「ケツからキーキー歌わしたるぞ!! 」
失神しそうな椿原を残し、僕達は校長室を出て行った。出るなりママのゲンコツを食らった。
「半端な気持ちでオネェやるんじゃないよッ!! 」
僕はうなだれる。
「明日から学ランにするよ」
仕方なく言った。
「博ちゃーん、ママー」
女の子の声に振り向くとカメラを構えていた。
「記念写真! はいっチーズ!! 」



Copyright © 2009 森下萬依 / 編集: 短編